(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年3月6日付)
中国は世界の貯蓄超大国だ。
昔、素晴らしい投資機会が存在する急成長中の経済だった頃には、多額の貯蓄は大きな資産だった。
だが、莫大な貯蓄はとてつもなく大きな頭痛の種にもなる。
現在、不動産ブームの終焉に伴い、こうした貯蓄を管理することが大きな課題になった。
中国政府は思い切って比較的急進的な是正策を選ばなければならない。
国際通貨基金(IMF)によると、中国は2023年に世界の貯蓄総額の28%を生み出した。これは米国と欧州連合(EU)を合計した33%のシェアを少し下回るだけで、かなり驚くべきことだ。
この数字はいくつかの意味合いも持っている。
一つは、もし中国が開かれた市場経済だったとすれば、中国の資本市場は世界最大になるということ。
もう一つは、こうした貯蓄がどのように管理されるかが世界の金利と世界の国際収支の唯一最大の決定要因になる公算が大きいということだ。
根本的には分布の問題、管理できなければ「長期停滞」に
筆者は昨年9月のコラムで、こうした根本的な課題を分析した。
最近中国を訪れたところ、この問題の重要性と、所得・支出構造の決定的な転換に踏み切る政府の意思の欠如が確かめられた。
このため、中国では全体的に極めて高い貯蓄傾向が今後も続く可能性が高いように思える。
だが、主な原因は多くの人が考えているような中国家計の倹約ではない。それ以上に重要なのは、国民所得に占める家計のシェアが極端に低いことだ。
言い換えると、北京大学光華管理学院のマイケル・ペティス教授が頻繁に論じているように、中国の貯蓄は大部分において分布問題だということだ。
貯蓄を減らすのが難しいのはそのためかもしれず、それゆえ中国の貯蓄率は国内総生産(GDP)比40%を上回って推移してきた。
このような経済において需要が潜在的な供給と釣り合うようにするには、国内投資(プラス経常収支の黒字)が計画的な貯蓄と釣り合わなければならない。
さもなくば、弱い経済活動を通して調整が行われる。つまり景気後退か、下手をすれば恐慌だ。
これは「長期停滞」だ。
中国の貯蓄ほど大きな貯蓄を抱えていると、これは避けるのが難しい。
2008年の世界金融危機とその後の債務にあおられた不動産ブームに先立っては、長期停滞を回避するために巨額の経常黒字を出す必要があった。