- 2023年の出生数(速報値)は8年連続の減少で75.8万人と過去最低となった。
- 全国的に少子化が急速に進行する中、全国有数の「子沢山」の自治体がある。人口5702人の町、岡山県奈義町だ。
- 合計特殊出生率は2.95(2019年、岡山県調査)と全国平均の2倍以上で「奇跡の町」とも呼ばれる。なぜ、子どもが増えているのか? 少子化の打開策を奥正親町長に聞いた。
(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
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「町が消える」危機
──日本の2023年の出生数は過去最少を記録しましたが、奈義町は高い出生率を維持し続けています。理由は?
奥正親・岡山県奈義町長(以下、敬称略):町政の1丁目1番地を「子育てがしやすい町にする」ことを掲げているからです。
奈義町がなぜ思い切った子育て応援施策を打ち出したか、その歴史的経緯をお伝えしましょう。2002年、奈義町では人口流出が止まらず、町を維持できないリスクにさらされており、他町村との合併の話が持ち上がったのです。
ただ、当時の町民の意思は明確で、約75%の有権者が住民投票で「奈義町の独立」を支持しました。合併話は立ち消えとなりましたが、ただでさえ町の人が少ないうえに高齢者が大半という課題は残ったままでした。若い人に子どもを産んでもらい、奈義町民になってもらわないと、町内の病院や介護施設、食品スーパーなどあらゆるインフラを維持することができなくなってしまいます。
そこで思い切って「子育てを町が全面的に応援する政策を打つ」ことにしたのです。具体的には「安心して子育てができる経済的支援」と「孤立しがちな核家族の子育ての精神的支援」の2つです。町議員数の削減(14人→10人)や公共事業の見直しなど徹底的に歳出削減に努めた結果、財源を約1億3000万円捻出できました。