佐々涼子さん(写真提供:集英社インターナショナル)

 売れないと言われる書籍のノンフィクション作品において、佐々涼子さん(55)はベストセラーを連発してきた。国境を超える遺体搬送を追い、開高健ノンフィクション賞を受賞、ドラマ化もされた『エンジェル・フライト』(集英社)、震災の犠牲と再生を描いた『紙つなげ』(早川書房)、在宅での終末医療を取材し、Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)……。そして昨年上梓した初となるエッセイ集『夜明けを待つ』(集英社インターナショナル)もまた版を重ね、話題を集めている。

(砂田 明子:フリーライター・編集者)

冒頭3編は、佐々涼子の根幹となるエッセイ

 佐々さんはデビュー以来、一貫して「死」というテーマと向き合ってきた。彼女を駆り立てたものは何だったのか。その内なる動機が、昨年出版した『夜明けを待つ』によってわかる。

『夜明けを待つ』(佐々涼子著/集英社インターナショナル)

 また、人間・佐々涼子の人生にも圧倒される。絵本の読み聞かせをする親のもとで育ち、若くして結婚・出産を経験。紆余曲折を経て、40歳を目前にノンフィクションライターになった。そして、2022年11月に、平均余命14カ月、10万人に1人といわれる悪性の脳腫瘍と診断され、現在、闘病中であることも明かされる。

 あとがきにはこうある。〈相変わらずできの悪い私だが、なにしろ時間が少ない。一冊にしてもらって、安堵の気持ちでいる〉

 10年ほど書き溜めてあったエッセイとルポルタージュをまとめたのは、集英社インターナショナルの田中伊織さんだ。藤原新也さん、角幡唯介さん、石川直樹さんはじめ、多くのノンフィクション作家と仕事をしてきた田中さんはデビュー前から佐々さんと共に歩み、『エンジェル・フライト』『エンド・オブ・ライフ』『ボーダー 移民と難民』を世に出した。

 この本が生まれるきっかけをつくったのも、田中さんだった。経緯をこう語る。

「2023年の1月、手術を終えて療養中の佐々さんに、これまで書いてきたエッセイを一冊にまとめたいと連絡しました。佐々さんと一番長く付き合ってきた編集者である僕が出したい、という思いがありました。

 ご主人の協力を得て、新聞や雑誌などに寄稿した原稿を送っていただき、原稿の整理をはじめました。すべての原稿を載せたわけではありません。佐々さんの人生に関わりのある原稿を中心に選びました。原稿の掲載順を決める構成も僕がやりました。冒頭3編は、佐々さんの根幹になるエッセイです。それを最初に置くべきだと考えました」

 冒頭に置かれたエッセイのタイトルは「死が教えてくれること」。佐々さんが母親を亡くしたあと、2014年に書かれたこのエッセイには、死に対する佐々さんの姿勢、考え方が凝縮されている。言うまでもないが、この頃、佐々さんは自分が10年後に重い病気になるとは、知る由もなかったはずだ。