東南アジア各国が個人消費によって高成長を実現していることから分かるのは、各国で資本蓄積が進み、国内のインフラが整ったことで、国民生活が豊かになってきたという現実である。

 一般的に新興工業国は、輸出とそれを支えるための生産設備への投資で経済を伸ばしていく。かつての中国や日本がそうだったが、GDPに占める設備投資の比率が高く、個人消費はそれほど成長には寄与しない。だが十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。

 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる

 この法則は過去の日本にも当てはまる。日本の1人あたりGDPが現在価値で1万ドルに達したのは1960年代であり、70年代以降、国内の風景は一変した。筆者は1969年生まれだが、小学校に入学する頃までは街中は汚く、一部では戦後の貧しい時代の雰囲気を色濃く残していた。ところが70年代後半から社会は急速に豊かになり、施設も見違えるように立派になっていった。