- この秋に上演された新制作の舞台の中から、演劇とオペラから一つずつ、印象に残ったものを振り返る。
- 一つは、「レイディマクベス」。もう一つは、東京二期会公演のヴェルディ作曲のオペラ「ドン・カルロ」。
- いずれも、従来の原作からは大きく逸脱した「弱体化したヒーロー」を登場させたという点において共通する。
(林田 直樹:音楽ジャーナリスト・評論家)
シェイクスピアの原作から大胆に現代劇へと改変された「レイディマクベス」
古典的名作には、時代を超えて生き続けるキャラクターたちがいる。シェイクスピアなら、ハムレットやリア王、ロメオとジュリエットなど。こういった登場人物たちは、あまりにもリアリティをもった深みあるキャラクターであるがゆえに、原作を離れて、あたかも自らの意志をもつかのように、この現代社会の中でも動き回ろうとする。
それをとらえて形にしたのが、原作を翻案したスタイルの新たな演劇やオペラである。この10月から11月にかけてロングランで新作初演された「レイディマクベス」もその一つだ(10月7日よみうり大手町ホールにて所見)。
◎「レイディマクベス」(ジュード・クリスチャン作、ウィル・タケット演出、天海祐希、アダム・クーパー他出演 10月1日~11月12日よみうり大手町ホール、11月16日~27日)
原作では稀代の悪女とされているマクベス夫人を天海祐希が演じ、その夫マクベスを人気ダンサーで俳優のアダム・クーパーが演じることで話題を集めたこの現代劇は、シェイクスピア原作をベースとしながらも、大胆に改変した、まったく新しい作品となっていた。
英国の女性作家ジュード・クリスチャンの書き下ろし脚本、英国を代表する振付家・演出家ウィル・タケットによる本格派の舞台である。
「レイディマクベス」は、中世スコットランドではなく、現代のどこかの国の物語だ。敵国の脅威と終わりの見えない戦争が背景となっている。
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