習近平氏(右)と握手を交わす李克強氏。中国の第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議は2013年3月15日、北京の人民大会堂で第5回全体会議を開き、表決の結果、李克強氏を中華人民共和国国務院総理にすることを決定した=2013年3月15日撮影習近平氏(右)と握手を交わす李克強氏。中国の第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議は2013年3月15日、北京の人民大会堂で第5回全体会議を開き、表決の結果、李克強氏を中華人民共和国国務院総理にすることを決定した(写真:新華社/共同通信イメージズ)

「李克強は習近平に暗殺されたのではないか?」――ここ一週間ほど、各方面から、何度この質問を受けたことだろう。私はそのたびに、「いえ、そんなことはないでしょう」と否定して回った。

 暗殺とか毒殺といったことは、もちろん悠久の中国史においては数多あるけれども、改革開放後の中国共産党においては、とんと聞かない。

 かつ習近平総書記はこの11年間、「政敵」たちを殺(あや)めるのでなく、「腐敗分子」のレッテルを貼って権力を剥奪し、監獄送りにしてきた。モスクワのクレムリン宮殿に鎮座する「盟友」とは異なり、奪うのは地位と財産、自由までなのだ。

 加えて、李克強前首相は今年3月に、習近平主席が望むように政界を完全引退しており、いまや「一市民」である。権力もなければ利権もない。政治的にすでに「死んでいる」人物に対して、それ以上何かするとは考えにくい。

背広に銀縁メガネ姿の遺体

 その李克強前首相の告別式が、11月2日午前9時(中国時間)から、北京西郊の八宝山(バーバオシャン)革命公墓で、しめやかに執り行われた。八宝山は、革命烈士を始めとする共産党幹部たちが葬られる特別な墓所だ。

 CCTV(中国中央広播電視総台)の映像を見ていて、まず驚いたのは、遺体安置室の中心で花に囲まれて横たわった故・李克強前首相の遺体の様子だ。真紅の中国共産党旗にくるまれ、背広姿で、銀縁メガネをかけていたのだ。安徽省の農村で克己奮闘し、北京大学法学部に入学して経済学博士号を取得。超がつくガリ勉だった李前首相の生涯を象徴しているようなメガネ姿だ。