米中外相会談、経済・気候変動対策で協働を確認

クリントン長官訪中、歓迎した楊外相だが・・・ 〔AFPBB News〕

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 3月8日のインペッカブルへの中国艦艇の異常接近は、中国の領海外だが、EEZで発生した。このため米側は、インペッカブルに対する中国の妨害活動は「国際法違反」と非難している。

 逆に3月12日付の人民網日本語版によれば、中国国防部の報道官は11日、インペッカブルは中国のEEZで中国側の許可を得ずに、不法な測量活動を行い、国連海洋法条約に違反していると米側を非難した。

 翌12日、オバマ大統領やクリントン国務長官、ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当)が相次いで、訪米中の楊潔チ外相と会談。オバマ大統領は事件が将来発生しないためにも、米中軍事交流のレベルと頻度を引き上げることが重要だと強調した。

EEZ内の活動解釈で「場外乱闘」

 ホワイトハウスの動きだけに注目すると、事件は一件落着と思われるかもしれない。しかし実際は、軍事面での緊張から国際海洋法という法律をめぐる戦い、あるいは「世論をどう味方につけるか」という戦いへ移行したように見える。2003年末に中国政府が改訂した中国人民解放軍政治工作条例は、人民解放軍の任務として「世論戦」「心理戦」「法律戦」の3つの重要性を指摘している。この定義に従うと、今や米中両国はこの「三戦」に直面したと言えよう。

 ところで、EEZではどのような活動が許されるのか。この点での米中両国の解釈は、実はお互い「場外乱闘」を行っている可能性がある。

 EEZは、1982年にジャマイカのモンテゴベイで合意された国連海洋法条約に由来する。この条約は「海の憲法」と呼ばれ、沿岸国の沖合200海里までをEEZとすることや、EEZ内の沿岸国による海洋調査やその他の権利を認める。日本や中国を含む150カ国近くが批准したが、米国は調印したものの未だ批准していない。

 その一方で同条約58条は、他のいかなる国も「沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払う」限り、公海上と同様の自由航行や海洋調査、漁業、海底電線・パイプライン敷設、さらには軍艦の沿岸国管轄からの免除を容認している。

 したがって条約未批准の米国に対し、中国側が「国連海洋法条約違反」と非難するのはややズレている。また、「沿岸国の権利・義務に考慮を払う」とはいえ、海洋調査中の外国軍艦への異常接近が条約上許されているわけでもない。

「共通解釈」目指し、多国間枠組みを

 南シナ海域のEEZをめぐる「法律戦」は、既に米中両国を超えて広がりだしている。3月10日、フィリピンのアヨロ大統領が国連海洋法条約に基づき、海洋権益を確定する「領海基線法」に署名。南沙(スプラトリー)諸島の領有権をめぐり、紛争が絶えない周辺当局に大きな波紋を投げ掛けた。15日には、中国が退役軍艦を再就航させた同国最大の漁業監視船をこの海域へ派遣している。

 シップ・アンド・オーシャン財団「海洋白書2004」によると、日本の領海とEEZを合わせた面積は447万平方キロメートルに達する。これは米国、オーストラリア、インドネシアなどに次いで世界第6位。本来、南シナ海で緊張が高まるEEZ「法律戦」に無関心でいられるはずがない。国連海洋法条約上のEEZの権利・義務について、日本は正しい共通理解を関係当局に広めるよう速やかに動き出すべきではないか。

 これには前例がある。2006年9月、日本と韓国が海洋の科学的調査を共同実施することで合意。その際、両国の外交当局は国連海洋法条約上で、EEZが重複する海域の解釈を整理した。このような条約遵守のための枠組みを、日本と米国・ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国を中心とする多国間にまで広げれば、南シナ海域EEZをめぐる紛争の回避と信頼醸成に有益であろう。そして、米国には国連海洋法条約の早期批准を促すべきだ。

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聡明で緻密な外務省は・・・〔AFPBB News

 その昔、外務省条約局(現国際法局)の官僚は北米局とともに日米安全保障条約の解釈と運用を一手に司り、「日米同盟の砦」と呼ばれていた。しかし、2001年9月の米同時多発テロの後、同盟概念は組織(institution)ベースから、機能(function)ベースへと変貌を遂げた。

 であれば、国連海洋法条約上のEEZの権利についても「共通解釈」という機能ベースで、日・米・ASEANの多国間枠組みに向けて動き出すべきではないか。もっとも、聡明にして緻密な条約畑の外務官僚であれば、そのような構想にもう着手しているのかもしれないが・・・。