トランプ前大統領(写真:AP/アフロ)

(塚田俊三:国際ジャーナリスト)

 先月8月14日に米国の前大統領ドナルド・トランプは、ついに4回目の訴追を受けた。通常の候補者であれば、選挙戦の最中に、一度でも刑事訴追を受ければ、それが致命傷となり、選挙戦から脱落せざるを得なくなるのであるが、トランプの場合は、むしろ訴追される度にその人気が高まり、支援募金も増えるという奇妙な現象が起きている。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの9月2日付の報道によれば、共和党支持者の半数は、「トランプが4回も起訴を受けたことを見て、逆にトランプに対する支持を固めた」と回答している。トランプは、3回目の訴追を受けた段階で、「もう1回訴追されれば、この選挙戦の帰趨は決まる(自分が勝つ)」とうそぶいていたが、単なる放言ではなかったようである。

 このように、いかなる暴言を吐こうとも、いかなる逆風にさらされようとも、一向に衰えない根強いトランプ人気はいったいどこから来るのであろうか?

 それは、米国の民主主義が既に形骸化しているからなのか? あるいは、米国社会の底辺に渦巻く社会不満が噴出しているからなのか? もしくは、米国の社会風潮がフェイク・ニュースや陰謀論にかき回され、もはや、真偽の区別がつかない状況に陥っているからなのか?

 本稿では、これらの疑問を、有権者レベルの側面から、さらには共和党という政党レベルの側面から掘り下げてみたい。

トランプへの熱狂的な大衆の支持はどこから来るのか?

 わが国では、選挙候補者を選ぶとき、何よりも大事なのは、候補者の人柄であり、それまでの実績であるが、米国では、スピーチが最も大事であり、いかにして聴衆にアピールする話し方ができるかで勝敗が決まる。

 この点、トランプは、社会の不満層が薄々感じている不安や怒りをうまくすくい上げ、その不満に油を注ぐようなしゃべり方をするので聴衆に受ける。その内容は、極端に誇張されたものであったり、全くの虚言であったり、単なる偏見であったりするが、それが事実に基づいているかどうかは全く問題ではなく、聴衆を燃え上がらせることができさえすれば、それで十分なのである。

 トランプ支持者は、都市部というよりは、田舎町、農村部に多く、一般に低学歴で、低所得者層であり*1、日頃、社会の潮流から取り残されたと感じている不満層が多いが、こういった聴衆に一体感を感じさせるようなスピーチができれば、それで大喝采なのである。

*1 この点、民主党は全く逆であり、民主党は都市部で強く、高学歴層に広く受け入れられている
 

9月20日、アイオワ州での党員集会にもトランプ前大統領の演説を聞くため熱狂的な支持者が集まった(写真:AP/アフロ)