- アルゼンチンで実施された大統領選の予備選で、「完全ドル化」を唱えるリバタリアン候補、ハビエル・ミレイ氏が首位に躍り出た。
- アルゼンチン社会ではドルの利用が進んでおり、ドル化した方が経済は安定するとミレイ氏は主張している。
- 左派政権の唱える「米ドル支配からの脱却」という主張が、有権者の幅広い民意を反映したものではないということが明らかになったと言える。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
大統領選の予備選で勝利したリバタリアン候補
アルゼンチンの金融市場が揺れている。
8月13日に行われた大統領選の予備選で、極右政党La Libertad Avanza(進歩自由党)の党首であるハビエル・ミレイ氏が開票率98%の段階で30.4%の得票率を得て、予想外に首位に躍り出たことが投資家の動揺を誘ったのだ。その結果、金融市場で通貨ペソに対する売り圧力が強まった。
こうした事態を受けて、アルゼンチン中央銀行は翌14日、対ドルでペソの公式レートを18%切り下げて1米ドル=350ペソで固定するとともに、政策金利を21%ポイント引き上げて118%にした(図表)。
そして、同日の市中の非公式レートは、1米ドル=600ペソ程度から680ペソ台まで下落し、過去最安値を更新することになった。
【図表 アルゼンチンの通貨と金利】
ミレイ氏はオーストリア学派の影響を強く受けたエコノミストであり、リバタリアニズム(自由至上主義)を信奉している。
リバタリアンは、財産権などを侵害されない限り、各人の自由は保障されるべきだと主張する。ネポティズム(縁故主義)が蔓延するアルゼンチンにおいて、閉塞感の打破を求める民意をリバタリアンのミレイ氏が吸い上げたようだ。
そのミレイ氏は、中銀を廃止して経済のドル化を進めるべきだと主張している。この主張は、極言すれば、アルゼンチンが自国通貨を排して米ドルを法定通貨とする「完全なドル化」を断行するということに他ならない。
アルゼンチン社会では幅広く米ドルが行き渡っているのだから、ドル化した方が経済は安定するというのがミレイ氏の主張だ。