河道とダムに頼るの時代が終わった先に
ところが都内での運用状況は芳しくない。国土交通省治水課によれば、「指定にあたってはステップがあり、多くの川で検討は進めていると思う」とは言う。しかし、東京都で指定されたのは、都の縁(ヘリ)を流れる鶴見川と境川の2本だけだ。
また、東京都の中小河川計画担当課によれば、善福寺川を含む神田川上流域について「指定の検討は法施行後の時期に行ったが、指定には至らなかった」という。
理由は「田んぼなどが宅地に転用される時に、貯める、浸透させるなどの施設を作りやすくするための法律だが、神田川上流域は、既に開発され尽くされているから」というものだ。2021年には、都市部の緑地を保全し、貯留浸透機能を有するグリーンインフラとして活用する関連法の改正もあったが、その改正後の再検討はしていないという。
川ギリギリまで宅地化が進んだ今、流域全体で治水する法律の運用には乗り気ではなさそうだ。
しかし、地域住民の意識はどうやら違う。
先述した「神田川流域河川整備計画」の決定前に行われた意見募集の記録には、善福寺川に関して「都市型流域治水」と称し、「川に隣接する住宅地に住む人は、戸建の敷地、集合住宅の敷地から雨水を外に出さない仕組みを作っていただきたい」との声が寄せられていた。都は、各自治体や流域住民の協力のもとに貯留したり浸透させたりする設備の設置などを進めると回答していた。
こうした住民からの意見は、特定都市河川浸水被害対策法で進めようとしている概念そのものであり、そしてそれよりもきめ細かい。「緑の会」が巻尺を持って歩き、「野球場とテニスコートを2m掘り下げ」たらどうかと提案したことも同様だ。
河道掘削とダム・貯留施設だけで洪水対策をする時代は終わったという住民の実感に、改めて、住民に近い自治体が追いつく番ではないか。
先出の丸山さんも、「これまでのような細切れの工事計画だけではなく、善福寺川流域全体のグランドデザインを、住民との共同作業で描いてほしい。未工事区間に新たに着手するまでに、数年かけて話し合っていきたい」と都の対話を求めている。