2020年1月、逃亡先のレバノンでインタビューに応じるゴーン氏とキャロル夫人(写真:ロイター/アフロ)

会社法違反(特別背任)の容疑で逮捕され、保釈中にプライベートジェットで国外逃亡したカルロス・ゴーン日産自動車元会長。最近、逃亡先のレバノンで日産などを相手に10億ドル(約1400億円)の損害賠償請求を起こし、7月18日には日本外国特派員協会でオンライン会見を開いた。瀕死の日産自動車を再建し、スター経営者となったゴーン氏は、その権力と栄光をなぜ失ったのか——。米ウォール・ストリート・ジャーナル記者の手によるノンフィクションが邦訳された。

(*)本稿は『カリスマCEOから落ち武者になった男 カルロス・ゴーン事件の真相』(ニック・コストフ&ショーン・マクレイン=著、長尾莉紗、黒河杏奈=訳、ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を抜粋・再編集したものです。

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 1999年以来、ゴーンはルノーと日産を近づけるべく努力してきたが、結局両社は小さく数歩を歩み寄ったにすぎなかった。しかし成功はそうした溝を覆い隠すものであり、ルノーと日産には豊富な成功体験があった。さらに、世界経済の回復に伴って自動車産業全体が急成長し、両社は規模・収益性ともに拡大していた。

 利益が上がれば上がるほどアライアンスに対する批判の声はかき消されていった。矯正措置を施さずともゴーンが立ち上げたこの同盟は魅力をさらに高め、彼の伝説もますます凄みを増した。

 経営大学院はゴーンが目指していることについてこぞって研究論文を発表した。それはつまり、メンバーが互いの利益のために協力し、くだらない私利私欲を捨てて相互の繁栄のために努める、企業版の欧州連合をつくり上げることだ。

 合併? コングロマリット? そんな古い言葉は当てはまらない。

 ゴーンは大手コンサルティング会社が作成した「自動車史上における10大提携」の表を投資家に見せるようになった。その表を見れば、実際に株主に価値を提供したのは彼のアライアンスだけであることが一目瞭然だった。

 これは祝福に値することだ。