オバマ米政権で金融対策「司令塔」を務めるガイトナー財務長官に対し、議会が批判の集中砲火を浴びせ始めた。経営が事実上破綻し、政府管理下にある保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の賞与支給問題の対応が後手に回り、野党共和党からは辞任要求も浮上。閣僚人事の目玉となるべき若き財務長官は、早くも剣が峰に立たされている。
「ホーム・アローン」(おうちに1人ぼっち)。経済・金融対策の実務を担う財務省高官人事が決まらず、孤軍奮闘中のガイトナー長官は米メディアからこう皮肉られている。47歳ながら童顔の財務長官を、人気映画の主人公の子供になぞらえているのだ。
金融・経済の要職を歴任し、華麗なる経歴を誇るガイトナー氏は、経済再生が喫緊課題となるオバマ政権の即戦力として期待されていた。ビル・クリントン政権の財務次官(国際金融担当)としてアジア通貨危機の収拾に当たり、ブッシュ政権下ではニューヨーク連銀総裁として今回の金融危機対応に奔走。昨年11月にオバマ政権最初の閣僚人事として発表された時には、共和党からも歓迎されていた。
それから4カ月。オバマ大統領が「全面的に信頼している」と繰り返さざるを得ないほど、ガイトナー長官への議会の不満は高まっている。
身辺調査嫌がり、辞退続出の高官候補
最初、ガイトナー氏は自らの税金問題でつまずいた。
大統領が指名する政府高官の人事には上院の承認が必要。上院財政委員会が財務長官としての適格性を調査したところ、ガイトナー氏に2002年と2003年分の納税漏れが発覚し、利息を含め4万ドル超の追加納付を迫られた。
さらに、家政婦が一時的に不法就労だった事実も分かると、野党共和党からは一転して「指名反対」の声が続出。上院本会議は賛成多数で承認したものの、約3分の1という大量の反対票が出ている。歴代財務長官がほぼ全会一致で承認された過去と比べると、異例の事態であり、多難な船出を暗示させた。
ガイトナー氏の財務長官就任直後、「大物」厚生長官に指名されていたダシュル元民主党上院院内総務にも納税漏れが発覚。野党共和党の批判の大合唱を受け、指名辞退に追い込まれている。もし納税漏れ発覚がダシュル氏の「後」だったら、ガイトナー氏の長官就任は実現しなかったかもしれず、その意味では幸運だった。
だが、閣僚候補に相次いだ納税漏れ問題は、結果的にガイトナー氏の首を絞めることになる。野党に突き上げられたホワイトハウスは、政府高官に指名する候補者の身辺調査を強化。徹底的な調査を嫌がって辞退が続出し、財務省では副長官や次官といった高官ポストのほとんどが空席のままだ(3月19日現在)。
具体性欠く金融安定化策、市場から批判
ガイトナー長官はこのため、シティグループやAIGなど個別金融機関の問題から、金融システム安定化策、金融規制・監督改革、自動車ビッグ3の再建、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などの国際金融会議まで、広範囲にわたる調整を事実上1人で仕切る羽目に陥っている。