(英エコノミスト誌 2023年6月3日号)

エルドアン再選でトルコの通貨リラに危機が迫っている

エルドアン大統領はどこまで持ちこたえられるのか。

 一息つけるはずだった。

 ところが、5月28日に決選投票が行われたトルコの大統領選挙では、投資家の予想を覆してレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が再選を果たし、この国の経済的な病が悪化した。

 トルコリラの対米ドル相場はこの2週間で5%下落し、1ドル=21リラまで落ち込んだ。

 トルコ政府はリラ相場を下支えしようとしているものの、一部のエコノミストは年末までに1ドル=30リラに達する可能性もあると考えている。

 預金者と投資家がそろってリラ離れを起こしているため、中央銀行の純外貨準備高も減少し、今ではマイナスに陥っている。

インフレ圧力に利下げで応じるトルコ

 このような苦境は常軌を逸した金融政策の症状だ。

 2021年にはインフレ圧力の高まりを受けて世界中の中央銀行が金利を引き上げていたが、トルコは逆に引き下げた。

 エルドアン氏は「低金利はインフレ率を低下させる」などという、オーソドックスな経済理論とは正反対の見方を信じ、中央銀行に政策金利の引き下げを繰り返し強要した。

 実際、トルコでは翌日物の政策金利が8.5%となっている。一方、公式発表によれば2022年通年のインフレ率は86%に達した(図1参照)。

図1

 インフレはその後、勢いを弱めている。公式推計によれば現在のインフレ率は44%で、独立機関による推計もこれより少し高い程度だ。

 エルドアン氏の取り巻きは、ボスはずっと正しかったと豪語している。

 実際のところ、インフレ率が低下した理由は、エネルギー価格の下落、為替市場への中央銀行の介入、そして前年の物価水準がすでに高いために物価上昇率が小さくなる「ベース効果」の3点に求められる。

 それでも、エルドアン氏は少なくとも当面は、これまでの政策を続ける公算が大きそうだ。

 選挙の勝利宣言をした演説では、金融政策の緩和とともに「インフレ率も低下する」と述べていた。