中国によるネットプロパガンダ「スパムフラージュ」が深刻な問題になりつつある(写真:アフロ)
  • 中国はネットを活用した影響力工作をますます強化しつつあり、他国の社会的な結束を弱体化させ、情報の正確性を阻害しようとしている。
  • その際に活用されているのが「スパムフラージュ」。自らの出自をカモフラージュしながら、あたかも本当にいる人のようにスパムをばらまく行為だ。
  • ChatGPTなどAIの進化によって、より説得力のあるプロパガンダをばらまけるようになった今、どのように対処すればいいだろうか。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 国家は自らが追求する目標を達成するために、さまざまな手段を通じて自国や他国の世論を左右しようとする。いわゆる「プロパガンダ」だが、その歴史は古く、古代エジプトのファラオであるラムセス2世もプロパガンダ行為を行ったと言われている。

 紀元前13世紀に起きたエジプトとヒッタイトの間の争い「カデシュの戦い」において、彼は実際には決着のつかなかったこの戦い(和平条約が結ばれて終わった史上初の戦争だそうだ)を、自国の民衆に対しては完璧な勝利であったと伝えた。

 その際に用いられたのは、古代エジプト文明でお馴染みの壁画や碑文だ。事実がどこまで伝えられたかはわからないが、戦闘は現在のシリア付近で起きたそうであるから、壁画でしか情報を得られなかったエジプトの民衆は、偉大な王の大勝利に沸いたことだろう。

 そして現代。世論工作のためにもっとも活用されているテクノロジーは、もちろん石を使ったメディアではない。プロパガンダの場はインターネット、中でもソーシャルメディアが中心となっている。

 そんなSNSを通じたネットプロパガンダについて、お隣の中国政府がますます力を入れつつあると指摘する報告書が、今年4月に発表された。そのキーワードは「スパムフラージュ(Spamouflage)」である。

【著者の関連記事】
選挙の根幹を揺るがす?AIがすべてを生成した米共和党「反バイデンCM」の意味
ChatGPTに議員宛の陳情を書かせてみたら……、民主主義をハックするAIの恐怖
世界を一変させるChatGPT、企業や社会が認識していない静かな情報漏洩リスク