トップが改革を唱えながらも組織は動かず、じりじりと死の谷に近づいていく。そんな企業に何よりも必要なのは、一人ひとりの社員が危機感を持つことだ。
 事業再生専門家として危機の現場に身を投じ続けてきた三枝匡氏(ミスミグループ本社名誉会長・第2期創業者)は、「成功する改革は、どこの会社であろうとも出発点は『強烈な反省論』である」と唱える。
 社員の目を覚ます強烈な反省論はどう描くのか。それを「改革ストーリー」にどうつなげるのか。事業再生ノンフィクション・ノベル『決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか? 「戦略プロフェッショナル・シリーズ」第2巻』(三枝匡著、KADOKAWA)から、「三枝匡の経営ノート」の一部を抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)

「赤い糸」は見えているか?

 会社が大きな赤字を出しているのに、その会社の社員がさして危機感を抱かない現象は、なぜ起きるのだろうか。

 この単純な質問に対して、社員の危機感が足りないと、トップがいくら声高に叫んだところで、何の効果もない。いつもの私の駄洒落だが、社員は、危機だ危機だと聞き飽きた、になるのがオチなのである。

 なぜ社員は危機感を覚えないのか。私はその答えを、事業再生の苦しい経験を重ねる中で探し続けた。やがて答えらしきものが見えた。なーんだ、と言われるような答えだが、実行するのは簡単ではない。

 社員が危機感をもたないのは、事業不振の原因に、自分個人がどう関わっているのか、その個人的な因果関係が見えないからである。その関係が、どんなに細くてもいいから赤い糸のように見えれば、真面目な日本人の多くは自分の責任を認識する。そうなれば、他部署や経営者のせいだけでなく、「自分もまずかった」と気づく。

 だが、その赤い糸が見えなければ、痛く思わないのは自然ではないか。会社の中がそういう仕組みであれば、事業不振は他人のせいだと思い続けることにはやむを得ない面があるのだ。偉い人が大赤字の話を壇上からいくら説明したところで、赤い糸が見えない話なら、個人の危機感は高まらないのである。