あまり知られていないが、北陸地方は中部地方と並ぶ「工作機械」の特産地だ。世界的に有名な工作機械メーカーが軒を接している。

 もともと北陸は繊維産業のメッカであったところから繊維機械が発展し、そのバックアップ産業として工作機械産業が発展した。

 その中でも独自の哲学で発展し続けているのが、石川県白山市にある中村留(なかむらとめ)精密工業(以下「中村留」と略す)である。世界的な低迷で工作機械業界には厳しい逆風が吹いているが、中村留はこの時期こそ人材育成のチャンスと捉え、さらなる成長への機会をうかがっている。

中村留精密工業(株)
〒920-2195
石川県白山市熱野町ロ15番地

 JR西金沢駅で北陸鉄道石川線というローカル色豊かな地方鉄道に乗り換えて約20分。田園の中にある曽谷駅から歩いて約7分。美しく整備された広大な緑地の中にそびえ立ち、周辺を睥睨(へいげい)しているのが中村留の本社ビルだ。

 1983年に昭和天皇の視察があるというので、「思い切って身分不相応な」(中村留男前社長)ビルを建てた。本社前には当時の記念植樹の木々や行幸記念の像がある。

下請けからスタートし、世界的な工作機械メーカーに

 中村留精密工業は、1949年、繊維機械工場で働いていた中村留男氏が独立し、金沢市新竪町に「中村鉄工所」を創業したことに始まる。

 創業時は10坪足らずの工場にボール盤と旋盤があるだけで、働き手は夫婦2人だけだった。当初は近隣大企業の下請け仕事をしていたが、腕が良く納期もきちんとしていたため、信頼を集めて発展し、60年には株式会社化し、名前も中村留精密工業と改めた。

 62年に、自社製品第1号の油溝切り旋盤を開発した。これを皮切りに、徐々に工作機械の開発・製造に重心を移していった。当時は重化学工業化が国策として推進されていたこともあり、工作機械の需要が拡大することを見越した留男社長の決断だった。

 65年に発売し、大ヒットとなったのが、油圧式自動タレット旋盤「NT-5型」だ。ワンタッチで刃物を変更し、多種の加工を1回固定するだけで手際よく仕上げる画期的なものだった。当時すでに人手不足が深刻な問題となり、省力化・合理化が課題になり始めていたので、引き合いが殺到した。この機械のヒットをきっかけに、「ナカムラトメ」というユニークな社名が機械関係業界に定着していくことになる。