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香港から移住したケンさんが暮らす台北郊外・淡水の風景 ©小山直則

(文:広橋賢蔵)

“中国化”する香港を逃れて台湾に移住する香港人は少なくない。しかし、言語の壁もあり、教師や弁護士といった知識人でさえ、台湾で安定した職業に就くのは難しいという現実がある。それでもある香港人男性は取材にこう語った――「香港にはない自由があるので、今はこれで満足です」。

 急速に中国化し言論の自由などに制約が生じている香港を嫌って、台湾に移り住む香港人は、コロナ禍を経てもそれなりの人数に上る。このことは、言及される機会こそ多くないが事実である。

 台湾の蔡英文政権は2020年6月の「香港国家安全維持法」成立に合わせ、香港からの移民や投資を促進する専門の窓口を開設した。これ以降、香港人が新たな移民グループの仲間入りをしつつある。

 香港人は台湾の地で安住できているのだろうか。家族で台湾に避難してきた香港人移民のひとりに、現状を聞いた。

 香港からの移民は2021年をピークに減少

 蔡政権が香港人専用の窓口を開設したといっても、無条件に移民を受け入れているわけではない。3月20日付の台湾紙『自由時報』によると、台湾政府は香港人に対する厳しい移民審査を実施しており、「観察期間1年」という状態で居留証(滞在ビザ)の発行を待つ香港人が2000人を超えた、と伝えた。

 2022年時点で居留証を所持している香港人は8945人で、2021年に最高を記録した1万1173人から2228人減少している。中国が発布した「国家安全法」の実施を機に、香港人の海外流出が増えつづけているが、移住先として台湾を選択した人の数は2021年がピークで、2022年度は減少を記録した。

 新たに台湾の身分証(国籍)を取得した人数は、年度別に以下の通りだった。2019年1474人、2020年1576人、2021年1685人、2022年1296人。2022年は前年比で23%減少している。減少の理由として、『自由時報』は以下の4点を挙げている。

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