そうした複雑な状況にもかかわらず、人口減少の総合的な影響はロシアという国を大きく変えることになる。それも悪い方向に変える。
人口減少に苦しむ国のほとんどは、大規模な社会的大変動を何とか回避してきた。
ロシアは別かもしれない。人口の減少ペースが異様に速く、今世紀半ばまでに1億3000万人を下回る可能性がある。
人口の減少に伴って痛みが増す。
ロシア人男性の平均寿命は2019年の68.8歳から2021年の64.2歳へと急激に短くなっている。これは新型コロナのせいでもあり、アルコールがらみの病気のせいでもある。
ロシアの男性は今や、バングラデシュの男性より6年早く、そして日本の男性より18年早く死亡する計算だ。
高学歴の若者が逃げ出す国
おまけにロシアは、ほかの国々を高齢化とともに豊かにする要因にも手が届かなくなるかもしれない。高度なうえにレベルがますます高くなる教育がそれだ。
米ワシントンのシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の人口学者ニコラス・エバースタット氏は、ロシアは第三世界の死亡率と第一世界の教育とを併せ持つ特異な国だと論じている。
確かに、25歳以上のロシア国民の学歴は一部の分野で世界のトップクラスに入る。
だが、高度な教育を受けた若者の脱出は、この優位性を損なっている。
ロシアの通信省によれば、2022年には情報技術(IT)分野の働き手の10%が国を出た。その多くは若い男性だった。
この脱出により、ロシア国民の男女比はさらにいびつになっている。2021年時点でさえ、男性100人に対する18歳超の女性の数は121人に達していた。
プーチンの征服欲は衰えないが・・・
この人口学的な破滅のループは、プーチン氏の征服欲をまだ弱めるには至っていない模様だ。
だが、このループのためにロシアは急速に小さく、教育のレベルも低く、かつ貧しい国に、そして若者が次々と逃げ出して男性が60代で死ぬ国になりつつある。
侵攻は人的大災害に発展している――しかもそれは、ウクライナ人だけにとっての話ではない。