ジャック・マー氏(資料写真、2015年6月18日、写真:ロイター/アフロ)

(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

 金融会社アントの経営権を創業者のジャック・マー氏が放棄したことが伝えられた。彼は中国共産党の締め付けを受けて、先にも習近平政権が唱える「共同富裕」社会実現のために日本円で1兆円を超える寄付を行っている。昨年(2022年)は長らく日本に滞在していたと言われるが、中国にいては危険とだと考えて海外で過ごす時間を増やしているように見える。

 中国共産党は中国経済界の英雄をなぜこれほどまでに虐げるのであろうか。習近平の金融政策を批判したから、彼の背後に上海閥につながるグループがいるから、などと解説されているが、ここでは少し視点を変えて、共産党の構成メンバーとの関係から彼の立場について考えてみたい。ちなみにジャック・マー氏は共産党員であるとされるが、このことについては後でもう一度触れる。

党員になるのは「出世」のための必須条件

 中国共産党員は9600万人余りとされるから、国民の15人に1人が共産党員ということになる。

 どのようにすれば共産党員になれるのであろうか。日本では希望すれば自民党員になれるが、中国では希望しても共産党員にはなれない。共産党員になるには学生時代に学校の推薦を受けて共産党の青年組織のメンバーになる必要がある。成績優秀で品行方正な人物が推薦される。その後、成人して共産党に入党する。これは、ごく普通の人が共産党に入党する方法である。