(福島 香織:ジャーナリスト)
新型コロナ感染症が再び広がり、不動産市場の調整が難航する中で、中国の信託業界の危機が深刻化している。
中国信託業協会の公表した最新のデータによると、2022年第3四半期、業界の累計売上は673.5億元、前年同期比22.8%の下落となった。累計利益は381億元で、前年同期比31.2%の下落である。
こうした中国信託業界の危機を象徴する事件が、2019年に巨額デフォルトを起こした「安信信託事件」だ。その安信信託が3年の時間を経て昨年(2022年)末に再編プロセスをほぼ終え、「建元信託」に社名を変更した。これで、中国からは「安信」が消えた。
先日、この事件で巨額資産を失った投資家たちから、事件の真相が公式に報じられているものよりもずっと深刻であるとの話を聞いたので、紹介したい。
資金を横領していた幹部たち
安信信託は中国最初の投資信託運用会社で、前身は鞍山市信託投資。1987年に設立され、92年に株式会社となって94年に上海証券市場に上場、2004年に本社は上海に移転した。