(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)
まったく忌々(いまいま)しい。あれだけの惨事が、政局論争にされてしまったのだ。しかも、あの日からわずか4日ほどでだ。
ソウルの繁華街、梨泰院で起きたハロウィン圧死事故では156人の尊い命が失われた。負傷者の数もほぼ同じくらいという悲惨極まる状況である。勤務先の大学でも、日本人ではないが留学生が1人犠牲になった。キャンパスには献花台が置かれ、重々しい雰囲気に包まれている。私もソウル市庁舎前とキャンパスで白菊を供えた。犠牲者の多くは親が私と同世代だ。気が遠くなる。
韓国政府は11月5日までを国家哀悼期間とした。多くのイベントが延期または中止されたほか、一部の番組はこの事故をめぐる報道番組に切り替えられている。
いつも対立している韓国の与野党は、事故発生の翌日、党派を超えて原因究明と再発防止に努めるというメッセージを発していた。与野党の代表も神妙な顔つきだった。
それが、あっという間に政局論争に切り替わってしまったのだ。まったく呆れてしまう。
動かなった行政の「居直り」発言
事故から時間が経つにつれ、多くの不手際が明らかになってきた。それが政策論争を引き起こしている。