(安田 理:安田教育研究所代表)
ご家庭にお嬢さんがいて、なおかつ中学受験を経験した方以外はご存じないかもしれないが、「洗足学園」(せんぞくがくえん/神奈川県川崎市)は中学受験の世界では誰もが知っている私立中高一貫の難関女子校である。
過去40年間で偏差値が20ポイントと最も上昇した学校、2022年度の東大合格者数(20名)が女子校で全国第3位など、インパクトのある材料がいくつもある。だが、それ以上に私が注目しているのは、どこよりも“時代の先端を歩いている”点だ。
図書館にずらりと並んでいた「書架」をなくした理由
コロナ禍もあり、洗足学園を訪れたのは数年ぶりだったが、校内のあちこちで以前はなかったものに出くわした。
まず、1階のフロアの壁際には人の顔型の飾り棚があり、そこに1冊の本が飾られていた。アイザック・ニュートンの著書『プリンシピア=自然哲学の数学的諸原理』の原書だ。
「何でここにこれを置いているのですか?」と聞くと、同校の宮阪元子校長は「『学校は叡智の象徴としてこれを選びました。あなたは何を選びますか?』と生徒に問いかけているのです」と教えてくれた。敢えて格調の高いものを見せることで、生徒の目線を上げているのだろう。
今年4月にリニューアルした3階の図書館「SKYLIGHT READING ROOM(スカイライト リーディング ルーム)」は空から陽光が入り、外に向かった側は全面ガラス張り。床にはグリーンのカーペットが敷き詰められている(ちなみに洗足のスクールカラーはグリーンで、制服もグリーンを基調にしている)。落ち着いた空間を演出することが多い他校の図書室とはずいぶん印象が違い、明るく開放的である。
何より驚いたのは、以前はずらりと並んでいた書架がごくわずかしかなくなっていたことだ。図書館と言えば蔵書数を誇り、書架がずらりと並ぶ光景を見慣れていたので、かなり違和感があった。「以前あった本はどうしたのですか?」と聞いてみると、同校の玉木大輔オフィスマネージャーからこんな答えが返ってきた。
「『e-LIBRARY』にしました。生徒が自分のタブレットやスマホでいつでもどこでも本を読めるようにしたのです。かつての蔵書に照らし合わせ、電子化された本の中から選択を行い、業者と契約を結んでいます。電子図書館の運営に関しては、著作権がクリアされた電子図書を利用するために、業者と契約を結んだうえで、洗足学園は電子図書館を運営しています」
書架を減らしたスペースには広い机を窓に向かって配置。さらにグループ学習などができる5つの小部屋を設けている。私が訪れた時には、その一部屋で先生が2人の生徒と小論文に取り組んでいた。
また、図書館の中央にはチェコのガラス工芸家、スタニスラフ・リベンスキーの作品が置かれている。実にオシャレである。