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遺体の掘り起こしをする作業員ら=9月19日、ウクライナ北東部イジューム(撮影:村山祐介)

(文:村山祐介)

2月24日のロシア軍侵攻から1カ月余りで制圧されたウクライナ東部の要衝イジューム。9月以降のウクライナ軍の巻き返しにより、同月10日にロシア軍はそこから撤退を余儀なくされた。残されたのは砲撃によって廃墟と化した街並みと、暴力の痕跡を残す多数の遺体だった。ジャーナリスト村山祐介氏の現地レポート。

 ウクライナ東部ハルキウ州のイジュームで見つかった集団墓地から、子ども5人を含む447人の遺体が掘り出された。ハルキウ州政府によるとほとんどが民間人で、30体には首や手が縛られているなど拷問の痕があり、男性器を切断された遺体も数体あったという。市内の警察署の地下室には、ガスマスクや縄、木の棒が雑然と置かれた「拷問部屋」も見つかった。ロシア軍が占領していた約5カ月の間に、戦略的要衝の地で何が起きていたのか。

死臭があふれ出す林

 イジュームの町の入り口に位置する松林の奥は、腐った肉と湿った土が混ざり合う凄まじい死臭に満ちていた。

 目の前に、掘り出されたばかりの遺体がうつ伏せに横たわっている。衣服と皮膚、地面の区別がつかないほど土色に変色している。白骨化が進んでいるのか体はしぼみ、遠目には性別も年齢も見当がつかないほどだ。全体がくしゃくしゃになったシーツのようにも見えた。

 ウクライナ軍が奪還した後に見つかった集団墓地で9月16日、遺体の掘り出し作業が始まった。私はその日の午後、内外のメディアを集めたプレスツアーに参加して現場に入った。

 整然と植林された木立の間に盛り上げられた土が無数に並んでおり、木片2枚を組み合わせただけの急ごしらえの十字架が立っている。十字架の中央には「158」「195」といった3桁の数字が手書きで記されていた。その脇で水色の作業服に身を包んだ約200人が、スコップを手に黙々と掘っている。

 深さ1メートルほど掘ったところで遺体が現れた。作業員たちは遺体の裏に布や縄を這わせ、6人がかりで声をかけながら一気に地上に引き上げた。持ち上げられた遺体が地面にゴロンと転がった瞬間、鼻の奥に痛みを感じるほど濃い臭いが放たれ、私は思わず後ずさりした。

 土を落として写真を撮り、手足を持ち上げて白い袋にそっと載せ、4人がかりで運び出していく。9体、14体……目の前で遺体袋の数はどんどん増えていく。掘り出された遺体には、すぐにハエが群がった。

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