岸田首相と会談するアーダーン首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2019年にニュージーランドのモスクを襲った銃の乱射事件では、51人が命を落とした。当時37歳の若き首相、ジャシンダ・アーダーン氏はすかさずすべての軍仕様の半自動小銃(MSSA)と自動小銃を禁止する法案を通した。新型コロナウイルスの蔓延時には、間髪入れずロックダウンを決行するなど、命最優先の明快なリーダーシップは国内外問わず、高い評価を受けてきた。

 人口およそ500万人の南極にほど近い小さな酪農国は、かつては世界の主役になれる国ではなかった。リベラルな女性政治家の優しさを重んじる政治がなぜこれほど注目を集めるのか。『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』を上梓した、作家のマデリン・チャップマン氏に話を聞いた。(聞き手:山内 仁美、シード・プランニング研究員)

※記事の最後にマデリン・チャップマン氏の動画インタビューが掲載されていますので、是非ご覧下さい。

──ニュージーランド国民は、どのような意図をもってジャシンダ・アーダーン氏を首相に選んだのでしょうか。

マデリン・チャップマン氏(以下、チャップマン):2017年頃、当時のニュージーランド国民は変化を求めていました。同じ政党のリーダーが約9年にわたって国を率いており、当時のジョン・キー首相には根強い人気があった。でも、保守党が4回目の選挙を行ったタイミングで、多くの若い有権者が変革を求めて声を上げたのです。

 当時、アーダーン氏が所属していた労働党にはリーダーにふさわしい候補がいませんでした。そこで党首であるアンドルー・リトル氏が、強い人気を集めているアーダーン氏の存在に目をつけ、自分が党首の座を降りて、副党首だった彼女をトップに据えるという判断を下したのです。アーダーン氏はずっと「やらない」と言い続けていましたが、最終的には任務を受ける運びになりました。

 人々が、彼女にリーダーになってもらいたいと願った理由はもう一つあります。2016年頃、米国でドナルド・トランプ氏が大統領に当選しましたが、これはニュージーランド国民にとって衝撃的なニュースでした。多くの左寄りの有権者が、トランプ氏の当選を脅威に感じたのです。

 ニュージーランド人の国民性として、米国などと比べ極端に過激な思想は少ないという点があります。だからこそ、過激な思想を持った小さな極右政党が急伸し、議会に人を送り込むようになる、そんな現実が起こるのではないかと危惧しました。

 実際にはそのようなことは起こりませんでしたが、政治の世界は何が起こるかはわかりません。今のままでいれば危険な思想の人間が指導者になるのではないか、そんな不安がニュージーランド国民の間に広がりました。恐怖を感じた人々にとって、トランプ氏と正反対の性質を持つアーダーン氏は、首相として完璧な候補になり得たのではないかと思います。

──アーダーン首相率いる労働党の支持率が、ここにきて下降してきています。その理由をどう考えますか。