核弾頭搭載可能な中国人民解放軍の準中距離弾道ミサイル「東風-21D」(資料写真、写真:新華社/アフロ)

 日本を攻撃しようとする相手国のミサイル基地などを自衛のためにミサイルで破壊する、いわゆる「敵基地攻撃能力」。この保有を巡る議論が、国会やメディアで行われている。とくに昨今は従来の議論と比べると、日本の周辺国の軍事情勢を踏まえ、感情論やイデオロギーを排した現実的な議論が多くなっているかに見える。その議論で必要な視点や盲点をあらためて炙り出すために、日本の核抑止研究の第一人者、高橋杉雄氏(防衛省防衛研究所防衛政策研究室長)に取材した。(吉田 典史:ジャーナリスト)

現実的な議論に必要な4つの視点

──反撃(敵基地攻撃)能力を保有するか否かの議論では、どのような視点が特に必要だと思いますか?

高橋杉雄氏(以下、敬称略) 少なくとも、4つの論点があります。これらのポイントを押さえて議論をしていけば、自ずと回答が見えてくると思います。

 第1に、軍事的な目的は何か。反撃能力によって何を攻撃して、どういう効果を狙うのか。第2に予算の問題。防衛費の中でどのくらいの額にするのか。第3は、日米同盟における付加価値。反撃能力を保有することで同盟をどのように強化できるのか。第4が、周辺諸国との関係です。

 それぞれを具体的に考えてみます。

 第1の軍事的な目的は、相手が北朝鮮か中国かによって異なります。北朝鮮の場合、いかに日本へのミサイル攻撃を阻止するか。BMD(弾道ミサイル防衛)と連携し、攻撃作戦を妨害し、BMDの効果を高めるような打撃力が必要になります。中国の場合は、それよりは複雑になります。ミサイルの性能が高く数も多いためです。簡潔に言えば中国が日本に向けてミサイルを発射した後、戦局をいかに有利にしていくか。その視点での打撃力が必要になります。