近藤誠也七段を破り「第71期王将戦」の挑戦者に決まり、記念撮影に応じる藤井聡太竜王 写真=毎日新聞社/アフロ

(田丸 昇:棋士)

タイトル戦で大活躍の藤井

 藤井聡太五冠(竜王・王位・叡王・王将・棋聖=20)は、2016年12月の棋士デビュー戦で勝って以来、2017年6月まで29連勝した最多記録を打ち立てた。

 三冠(王位・王座・棋聖)を保持していた羽生善治九段(51)は当時、「29連勝は歴史的な快挙です。内容が伴っている点でも凄みがあります。ひのき舞台で顔を合わせることを楽しみにしています」と、藤井四段を絶賛した。その「ひのき舞台」とは、タイトル戦で対戦することである。

 羽生は2017年12月に竜王を獲得して「永世七冠」の偉業を達成し、タイトル獲得は通算99期を数えた。

 ところが、羽生はその後、タイトル獲得とタイトル防衛で失敗を重ね、2018年12月には「無冠」に転落してしまった。肩書がタイトルではなくて段位になったのは、1989年の六段時代以来、29年ぶりのことだった。

 羽生九段は2019年以降、タイトル戦に登場したのは1回だけで、その2020年の竜王戦は豊島将之竜王(32)に敗退した。タイトル獲得は、大台の通算100期を目前に足踏み状態が続いている。

 羽生と入れ替わるように、タイトル戦で大活躍しているのが藤井だ。将棋界の勢力図は、今やすっかり様変わりしている。なお、タイトル戦での羽生と藤井の対戦はまだ実現していない。

藤井五冠、快進撃の戦績

 2020年の棋聖戦で、藤井七段はタイトル戦で初めて挑戦者になった。そして同年7月、渡辺明棋聖(38)を3勝1敗で破って棋聖を獲得した。17歳11ヵ月でのタイトル獲得は最年少記録となった。

 藤井新棋聖は記者会見で《初戴冠》と書いた色紙を掲げ、「責任のある立場になるので、よりいっそう精進して、いい将棋を指していきたいと思います」と語った。

 藤井はその後、タイトル戦で次々と挑戦したり防衛を重ね、快進撃を続けている。その戦績を、以下のように列記する。

 2020年8月。藤井棋聖は王位戦で木村一基王位(49)に挑戦し、4連勝で破って王位を獲得。

 2021年7月。藤井棋聖は棋聖戦で渡辺名人の挑戦を3連勝で下し、棋聖を防衛。

 2021年8月。藤井王位は王位戦で豊島竜王の挑戦を4勝1敗で下し、王位を防衛。

 2021年9月。藤井二冠は叡王戦で豊島叡王に挑戦し、3勝2敗で破って叡王を獲得。

 2021年11月。藤井三冠は竜王戦で豊島竜王に挑戦し、4連勝で破って竜王を獲得。

 2022年2月。藤井四冠は王将戦で渡辺王将に挑戦し、4連勝で破って王将を獲得。19歳6ヵ月での五冠取得は、羽生九段の22歳10ヵ月を上回り、最年少記録となった。

 藤井五冠は記者会見で「過去に五冠になられたのは、時代を築いた偉大な棋士の方ばかり。とても光栄に思います。今後はさらに実力をつけていきたいです」と語った。

 2022年5月。藤井五冠は叡王戦で出口若武六段(27)の挑戦を3連勝で下し、叡王を防衛。

 2022年7月。藤井五冠は棋聖戦で永瀬拓矢王座(29)の挑戦を3勝1敗で下し、棋聖を防衛。

 藤井は2020年7月に初タイトルの棋聖を獲得して以来、9期連続でタイトルを獲得・防衛している。これは空前の大記録だ。しかも、2021年の叡王戦で最終局にもつれ込んだ以外は、圧倒的な成績を挙げている。