(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
6月5日、中央アジアの有力国カザフスタンで、大統領の権限を制限する内容を含む改憲案を問う国民投票が実施され、77.2%が賛成した。選挙管理委員会によると投票率は68.1%に達しており、現職のトカエフ大統領が進める政治改革を有権者が信任した形だ。カザフスタンでの民主化の進展が期待されている。
2019年に就任したトカエフ大統領は今年1月、国家安全保障会議の終身議長であったナザルバエフ前大統領を解任した。そして、トカエフ大統領自身が国家安全保障会議の議長に就任すると同時に、終身議長職を廃止させた。その後、大統領は3月16日に年次教書演説を行った際に、民主化に向けた政治改革の指針を発表した。
今回の国民投票は、トカエフ大統領が3月に示した政治改革の方針に則って実施されたものだ。
改憲案では、大統領の権限を抑制するとして大統領が任期中に政党に所属することを禁じる方針が示され、自身も与党アマナトの党首の座を4月に退き、離党している。さらに、大統領の近親者が官僚や政府系機関の要職に就くことも禁止する模様だ。
選挙制度改革も併せて実施される。
2021年1月に行われた前回の総選挙は、下院(マジリス)の定数107議席のうち98議席を比例代表制で選出し、残り9議席を大統領直下の諮問機関である国民総会が選出する形式で実施された。大統領は国民総会による選出をマジリスから上院に振り替え、5議席に減らす意向を持つ。
一部報道によると、その他にも比例代表制に多数代表制を7対3の割合で組み合わせる方針のようだ。多数代表制を組み込むことで、政局を安定させる意図があるものと推察される。また、政党の結成に要する党員数を従来の2万人から5000人に減らし、新たな政党の勃興を促す。
このように、大統領の改革志向は実に野心的である。