予想外に回復しているルーブル(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ロシアの通貨ルーブルの相場が予想外に回復している。

 ルーブルの対ドルレートは、欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁を受けて大暴落し、1ドル70ルーブル台半ばから3月中旬には一時120ルーブル台に値を下げた。しかしその後、ルーブルの対ドルレートは急回復し、5月後半には50ルーブル台まで値を戻した。

 ではなぜ、ルーブルは「V字回復」を果たすことができたのか。

 欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁のため、ロシア当局は日米欧の中銀に預けている外貨準備にアクセスできない。ロシアによる為替介入など困難な状況であるはずだが、そのロシアにおいて、安定的に外貨を稼いでいるのが、半国営のガスプロムである。

世界最大のガス企業であるガスプロム(写真:ロイター/アフロ)

 世界最大のガス企業であるのガスプロムは、ドイツやイタリアなどヨーロッパの需要家に対して、傘下の金融子会社であるガスプロムバンクに口座を開設させ、そこに代金を振り込ませている。そして得られたユーロや米ドルを、ロシア政府の意向を受けたガスプロムバンクが為替市場でルーブルに交換している可能性が考えられる。

 そもそもロシアは、主要行の多くが国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されため、貿易決済が困難となっている。それに、ロシアの銀行では3月9日から半年間、外貨からルーブルへの両替だけが可能であり、その逆の両替が停止されている。したがって、為替市場ではルーブルの商いが薄く、為替レートは変動しやすい状況にある。

 こうしたことから、ガスプロムバンクによる限定的な取引にもかかわらず、ルーブル相場は急回復したのではないだろうか。ただ、このスキームは、ヨーロッパ側がロシア産の天然ガスを購入する限りでしか持続しない。ルーブルの急回復はロシアの経済構造を反映したものだろうが、だからといってロシア経済が盤石だとは評価できない。