(文:夏目英男)
1980年以降に生まれた中国のアフター・ミレニアルズは、高等教育の再開、一人っ子政策、経済体制の改革など国の方針が大きく変わる波瀾万丈の時代を経験し、中国の飛躍的な成長も目の当たりにしてきた。新しい道を切り拓いた80年代生まれ、チャンスを逃さない90年代生まれ、階層の固定化に苦しむ2000年代生まれ――そんな彼らの目に日本はどのように映っているのか。
“少年が賢ければ国も賢く、少年が裕福であれば国も裕福、少年が強ければ国も強く、少年が自由であれば国も自由、少年が進歩すれば国も進歩する”
中国清朝末期、戊戌の変法(明治維新と同様、立憲君主制による近代化革命)に失敗し、日本へと亡命した中国の思想家、文学者である梁啓超は、亡命中に「少年中国説」という散文を書き残した。
封建制度下の清朝政府を“老いた帝国”と批判し、少年のような中国を切望した梁啓超は、既得権益を死守する保守派ではなく、若き改革派が国の維新を担う近代化革命を期待した。その後、辛亥革命が発生し、君主制が廃止され、アジアにおいて史上初の共和制国家が中国に誕生した。
「少年中国説」が発表されてから早100年経つが、現代中国は未だこの思想を受け継いでおり、梁啓超が期待したような“少年たち”が発展を支える社会と言えよう。
28歳でFIREし中国国内で大きな話題に
そんな“少年”の一人を取材した。世界最大のユニコーン企業であるバイトダンス社の初期エンジニアとして活躍した後に早期退職をし、現在日本でスタートアップを経営中の郭宇氏だ。
郭氏は1991年に中国・江西省で生まれ、中学時に両親が働く深圳に移住。大学は“華僑トップレベルの大学”と称される曁南大学へと進学し、行政学を専攻した。しかし、自身の専攻に違和感を抱き始め、在学時に独学でプログラミングを学習。その後、アリババグループのアリペイにて長期インターンに従事し、キャッシュレス決済システム「アリペイ」の初期開発に携わる。
2013年には友人と北京でスタートアップを創業した。このスタートアップが創業からわずか1年弱でバイトダンス社(JBpress編集部注:TikTokなどの運営会社)に買収され、それから6年間エンジニアとして開発に従事した。
2020年2月12日に、郭氏はWeChatとWeiboを通じて、早期退職に関する内容を投稿し、日本へと移住することを公言する。わずか28歳(当時)で世界最大のユニコーン企業から早期退職をする決断に、ネットは騒然となった。郭氏のFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期リタイア)は中国のQ&Aサイト「知乎(Zhihu)」にスレッドが立ち、瞬く間に1000万ビューへと到達した。
中国のネットフィーバーの中で起業
――インターネットに触れたきっかけは?
僕は中国・江西省の生まれで、実家から市街地まで車でも2時間を要する田舎でした。父親は電気工事士で、僕が生まれてから深圳へ母親と出稼ぎに行きました。僕は祖父母に育てられ、中学生の時にやっと深圳へと移住しました。インターネットとは無縁の生活で、当時はおじさんから送られたSF小説にはまり込み、夢は作家になることでした。
転機となったのが高校3年生です。僕が立ち上げた読書会のためにウェブサイトを作成しようと考え、高考(中国版大学入学共通テスト)が終わった3日後には独学でプログラミングを学び始めました。その頃に前述のおじさんとおばさんが僕にノートパソコンをプレゼントしてくれて、それから大学の4年間、僕はプログラミングにのめり込んだのです。
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