だがこの言葉も米国政府の政策とは異なっていた。ホワイトハウスはすぐに声明を出して、米軍部隊がウクライナ周辺のNATO(北大西洋条約機構)加盟国に派遣されることはあっても、ウクライナ国内には入らないという従来の方針に変わりはない、と明言した。
さらに3つめの例として、NATO本部での記者会見における矛盾した発言もあった。
3月25日にベルギーの首都ブリュッセル郊外のNATO本部で開かれた同会見の最終部分で、バイデン大統領は米人記者から「経済制裁によってロシアのウクライナ侵略の軍事行動を抑制できるか」と質問された。その問いへの答えは、「経済制裁がプーチンを抑止することはない」「経済制裁はそもそも軍事侵略を抑止できない」だった。
だが、この言葉は米国政府の政策表明に反している。さらにバイデン大統領自身が経済制裁の発表時に述べていた「ロシアの侵略行動抑止の効果」と相反する答弁だった。ホワイトハウスはすぐにこの矛盾発言を消火することになった。
次元は異なるが4つめの類似例と呼べるのは、バイデン大統領の米国議会での一般教書演説である。同大統領は3月1日のこの重要演説で、「プーチンはイラン国民の心や魂を掌握することは決してない」と述べたのだ。ウクライナ国民というべきところをイラン国民と間違えたのである。
その失言を聞いた上下両院議員たちは一瞬凍りついたように沈黙したが、ミスを指摘したり追及する動きはみせなかった。バイデン氏のこの種の言葉のミスには慣れているという感じだった。だが、大統領の錯誤発言が米国にとって深刻な問題であることは確かである。