米FRBは中央銀行デジタル通貨の利点と欠点をまとめた報告書を公表した。写真はパウエル議長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(岩田太郎:在米ジャーナリスト)

◎前編「米議会に決断を丸投げしたバイデン政権、デジタルドル導入に立ちはだかる隘路」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69223)から読む

 バイデン大統領は3月9日に、米国における中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行のメリットとデメリットの研究を加速させるよう命ずる大統領令を発出した。今後、デジタルドル発行の是非に関する議論が高まることが予想される。

 だが、前回記事(米議会に決断を丸投げしたバイデン政権、デジタルドル導入に立ちはだかる隘路)に見たように、リベラル派のCBDC推進者たちが唱える「貧困層など弱者の金融包摂」は、実はアングラ現金経済のデジタル技術による見える化と監視を狙ったものだ。

 さらに、中国のデジタル人民元(e-CNY)が米ドルの基軸通貨の地位を脅かすことを防ぐというデジタルドルの目的についても、著名エコノミストたちが、「デジタル人民元脅威論」が誇張されたものであると結論付けている。

中国はデジタル人民元の試験運用を進める(写真:AP/アフロ)

 CBDC発行目的が金融包摂のためではなく、米ドルの基軸通貨としての地位防衛でもないとすれば、デジタルドルを推すリベラル派の真の狙いは何なのだろうか。

真の目的は「大きな政府」

 デジタルドル推進派の真の目的を知るためには、CBDCを強力に推す民主党の経済政策の本質を見極める必要がある。例えば、党内から造反者が出たことで事実上の廃案となった、バイデン政権の超目玉政策「社会支出・税制パッケージ(ビルドバック・ベター)」は当初、1兆7500億ドル(約200兆円)の超大型歳出・歳入法案として上程された。

 その中身を見ると、子育て世帯への税控除が大きな柱となっていたことがわかる。だが、この子育て世帯支援策は、単なるバラマキや中間選挙向け票稼ぎとは違う。なぜなら、民主党が提出した別の法案において、デジタルドルが税控除の自動給付システムの不可欠な一部として構想されていたからだ。また、リベラル派に支持者が多い最低限所得保障の「ベーシックインカム」の給付装置としても、CBDCが盛んに議論されていることは特筆される。

 これは、保守派から見ると、国民を政府からの福祉補助金に恒久的に依存させる「大きな政府」のデジタル版に他ならない。