写真=松橋晶子(楠本修二郎)

 日本が世界に誇る文化としての食。それを、どのように世界へ発信していけばいいのか。様々な企業や団体によるチャレンジが行われているが、とくに重要なのは、世界の現状を踏まえたうえで、日本がどのような価値を提供できるのかということ。
 日本の食文化がどう世界に貢献できるかについて、慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授と著書『おいしい経済』を上梓したばかりのカフェ・カンパニー代表の楠本修二郎氏が語る。

文=山中勇樹

美味しさのもとになる「揺らぎ」とは

宮田:今、飛騨高山で大学を設立し、データを使って地域と観光やアート、食などの文化をつなげるプロジェクトを手がけています。

 岐阜県には有名な「飛騨牛」だけでなく、ジビエや山の幸、鮎など、食材が豊富にとれます。ただ、加工や料理の提供に関しては、必ずしも現地ではなく、異なる場所で行われているケースが多いんです。

楠本:飛騨の山々が育てた栄養が川から海に流れつき、伊勢湾が非常に豊かになっていますよね。僕は、そういう源流に近いところに、人々の興味が集中してくる時代が必ず来ると思っています。

 例えば、北海道の産業の中心は農業ですが、その食材の大半は東京に来ています。また、鹿児島などでも、美味しい豚を作っていますが、その豚肉を活かしたおいしいとんかつ屋さんは東京にあったりします。そこに地方と都市の関係性も見えてくると思っています。

宮田:その通りですね。

楠本:逆に言うと、「おいしい」の起源が地方にあるから、それをブランド化することも大事だと思います。実は、著書(『おいしい経済』)の最後に、47都道府県別のジオ・ガストロノミーの特性を一覧表にして掲載しているんです。

宮田:たくさんありますね。こういうのも大好きです。

楠本:その過程で、日本は調べれば調べるほど、地球の縮図なのだと感じました。色々な地形や川、海、海流など、地域ごとの自然が織りなす多様な特性が非常に面白いです。

 こういった事柄とその土地が持つ歴史を掛け合わせながらデータベース化しつつ、「なぜ、この地域の豚肉がこんなに甘いのか」「なぜ、この地域の牧草は牛が健やかに育つのか」なども、紐解いていけたらと考えています。

宮田:素晴らしいです。それがまた、多様性の中での“揺らぎ”となり、さらなる豊かさに繋がっていくんですね。

楠本:揺らぎ、ですか。

宮田:そうです。やっぱり揺らぎこそが美味しさの秘訣なんです。

 食材を科学的な物質で安定させると、均一になってしまい、美味しさを感じにくくなってしまいます。そこで自然の波形として、揺らぎの不均質さと調和を生み出すこと。そこに、美味しさの秘密があったりしますよね。だからこそ、日本の持っている多様な風土が、美味しさの提供に有利に働くんだと思います。