なぜ深海魚は大きな口や鋭い歯を持っているのか
──本書では海洋化学や海洋生物学などの学術分野が紹介されていました。それぞれの学問の特徴と役割、関連性と、この他にも海洋に関わる学術分野があれば教えて下さい。
蒲生:「海」の科学は、きわめて学際的な学問分野です。
海の生物を研究しようとすれば、海の化学や物理学をある程度知らないと話が進みません。海の化学の研究のためには、生物や物理の知識が前提になります。海の上には大気があり、海の下は地殻(岩石)です。海洋気象学や海底堆積物学、地学、海底地質学、海底物理学など、それぞれ海と密接に関連した学術分野が幅広くあります。
窪川:海洋に関する学問分野として、蒲生先生がおっしゃった自然科学だけではなく、水産学や、洋上風力発電、造船、海洋港湾に関わる海洋工学もあります。

新型コロナウイルス感染症が収束したら、気候変動や海洋汚染など地球環境の問題が再び注視されるようになるでしょう。海洋プラスチックごみや漁業問題が社会生活にどんな影響を与えるのか、最近は社会科学の議論でも海はよく取り上げられています。
また、国際的に見ると、捕鯨問題や生物多様性条約などの国際条約に関する法学も重要になっています。これらの分野においても、海洋調査や観測が基盤となるので、海洋科学の重要性が増すでしょう。
──深海魚の特徴として、黒い身体、大きな目、大きな口、鋭い歯が挙げられていました。深海魚といえば、水中のプランクトンを餌にしているというイメージがあります。なぜ「鋭い歯」が必要なのですしょうか。肉食系の深海魚も多いのでしょうか。
窪川:深海・超深海は、太陽の光が届かないので、光合成をする植物プランクトンがいない水深です。
しかし、小型で泳ぎが上手なハダカイワシのように、浅海に移動してプランクトンを食べる深海魚もいます。他方、プランクトンを積極的に食べることのない深海魚は、餌となる無脊椎動物や魚の少ない深海で、暗闇でも効率よく餌を獲得するためにどうするでしょうか。
猛スピードで泳ぐとエネルギーを無駄に消費してしまうので、自分は動かずに獲物を待ち伏せしたり、チョウチンアンコウのように頭部の突起にある発光器を揺らしておびき寄せたりします。こうした省エネ型の方法によって、できるだけ栄養価の高い大きな餌を得るために、大きな口や一度噛みついたら離さない鋭い歯が発達したと考えられています。
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