プーチン大統領も参加したロシアのアバンギャルド発射実験(2018年12月26日、ウィキペディアより)

 米中ロ、北朝鮮など各国による極超音速ミサイルの実験と配備に関する報道が注目を集めている。

 迎撃不可能とも言われる極超音速ミサイルは、日本の安全保障にも衝撃的影響を与える。

 各国の極超音速ミサイルの開発配備の実態とその戦略的意義を明確にすることは、日本の防衛・安全保障政策にとり差し迫った課題になっている。

 以下では主に、米国議会報告(CRS Report)『極超音速兵器: その背景と議会にとっての課題(Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress)』(2021年10月19日更新、R45811)に基づき、その現況と意義について述べ、それを踏まえて日本としての対応策を考察する。

極超音速兵器の特性と脅威

 一般に極超音速兵器と呼ばれるマッハ5以上で飛翔する兵器は、大きく2種類に分けられる。

 極超音速滑空体(Hypersonic glide vehicles: HGV)と極超音速巡航ミサイル(Hypersonic cruise missiles)の2種類である。

 前者は、目標に滑空する前に飛翔体がロケットから発射される。後者は、目標を捉えた後に、高速の空気取り入れ型のエンジンまたは「スクラムジェット」の推力により加速される。

 弾道ミサイルと異なり、極超音速兵器は弾道に従って飛翔せず、目標に向かって変則的に機動するか変則的な経路をたどる。

 極超音速兵器は、他の手段では使用できないか接近困難な、遠距離の防護された目標または時間的に緊急を要する道路移動式の目標などに対して、対応可能な長射程の打撃手段である。

 通常弾頭の極超音速兵器は、運動エネルギーのみを使い、堅固化されていない目標や地下の施設を破壊できる。

 極超音速兵器は、その速度、機動性、低飛行高度により探知や防衛が困難である。例えば、地上に配置されたレーダーでは、飛翔中には手遅れになるまで探知することはできない。

 探知が遅れるため、意思決定者はその防衛システムの対応方針を決定する時間がなくなり、一度だけしか迎撃が許されなくなるかもしれない。

 さらに、地上配備のレーダーと現在の衛星搭載探知システムでは、極超音速兵器の探知と追尾には不十分である。

 極超音速兵器の目標は、静止衛星により探知される通常の画像に比べて10倍から20倍もぼやけてみえる。

 高性能迎撃システムや指向性エネルギー兵器の統合探知・射撃統制システムの多層センサーは、将来の極超音速兵器に対する防衛策の価値のある選択肢になりうるとみられている。

 2019年の米国の『ミサイル防衛見直し』報告では、「そのような多層的なセンサーは、HGVや極超音速巡航ミサイルなどの先進的な脅威目標に対し、宇宙から広範囲にわたり監視ができ、追跡能力を向上させるという利点がある」と述べている。

 一部のアナリストは、広範囲の極超音速兵器に対する防衛の、実現可能性、技術的実現性、実用性を疑問視しているが、特に点防御システムやTHAAD(終末高高度防衛)システムは、極超音速ミサイルに対処するのに適しているとの見解もある。

 しかしそれらのシステムには、狭い地域しか防御できないという問題がある。

 全米大陸を覆うには実現不可能なほど多数のTHAADを配備する必要があるだろう。また、現在の米国の指揮統制態勢では、極超音速兵器の脅威に対処し無力化するためのデータ処理能力が不十分とみられている。