(英エコノミスト誌 2022年1月8日号)

齢を重ねて焦り始めたのか、言動が過激になっている

ロシアによるウクライナへの攻勢は欧州防衛強化のチャンスを生み出した。

 一方の当事者が銃を振り回す状況で交渉が始まる場合、それは悪い兆しであるのが普通だ。ロシアの外交官が北米や欧州の外交官と行う協議も、その一例になるかもしれない。

 ロシアの背後には、ウクライナ侵攻の準備を整えた10万人規模の部隊が控えているからだ。

 危険にさらされているのは、自分たちは西側の一部なのだとますます考えるようになっている国の将来であり、欧州防衛の要(かなめ)としての米国の役割だ。

 危機が決定的な局面を迎えるなか、計算違いのリスクが大きくなりつつある。

ロシアが西側に突き付けた法外な要求

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は一連の協議に向けた要求をすでに明らかにしている。

 まず米国とロシアの話し合いが1月10日にスイス・ジュネーブで始まり、その2日後にはベルギー・ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)ロシア理事会が開かれる。

 そして1月13日の欧州安全保障協力機構(OSCE)の会合が締めくくりとなる。

 プーチン氏は、NATOがこれ以上の拡張をやめること――旧ソビエト連邦の一部だったウクライナやジョージア(グルジア)に限らず、もうどの国も加入させないこと――を望んでいる。

 米国はもう同盟国を戦術核兵器や短中距離ミサイルで防衛してはならない。そしてNATO加盟国の東部への派兵や演習、および旧ソ連諸国との軍事協力に対する事実上の拒否権を手に入れることも求めている。

 これらの要求の多くはあまりに法外で、欧州の安全保障にとっても有害であることから、あえて拒否されるように書かれた最後通告なのかもしれない。

 拒否されたらウクライナに再度侵攻する口実にしよう、というわけだ。

 プーチン氏は、戦争を始めようと決心したら実行に移す。しかし、力強い外交を行えばプーチン氏の歩みを止め、ロシアと西側の長きにわたる関係悪化に歯止めをかける一助になるかもしれない。

 仮に協議が失敗に終わっても、NATOはより強く、より団結した組織になり、直面している脅威をより明確に把握できる可能性がある。