(英エコノミスト誌 2021年12月18・25日合併号)

一度ドアを開けてしまったら後戻りはできなくなる

 もうそろそろ終わりだろうか――。人々はこの1年、そんなことを考えながら、安定性のようなものを切望してきた。

 もう昔の暮らしは取り戻せないと観念した人でさえ、ニューノーマル(新常態)の到来を願った。

 しかし2022年が近づく今、世界を覆う予想通りの予測不可能性に向き合わなければならない。

 2020年代の残りは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)登場前の時代に見られたおなじみのパターンではなく、パンデミック(世界的大流行)時代の混乱と困惑に彩られた数年間になる。

 ニューノーマルはすでに到来しているのだ。

 2001年9月11日の米国同時多発テロ事件が航空業界を波状的に変え始めた時のことを、読者は覚えておられるだろうか。

 その後の数年間は、新たなテロの企みがあるたびに想定外の弱点があらわになり、それを受けて新たなルールが必要になるパターンが繰り返された。

 まず、旅客機の操縦室にカギがかけられ、武装警備員が増員され、とがったモノの持ち込みが禁じられた。

 やがて液体の入ったペットボトル、靴、ラップトップコンピューターなども疑われるようになった。

 空の旅が常態に戻ることはなく、新しいパターンが確立されることもなかった。何もかもが恒久的に見直しの対象になっていった。

パンデミックですべてが流動化

 今日のこの世界も同じように予測不可能になっている。その理由の一端はパンデミックに求められる。

 ほぼ2年にわたり、人々はマスク着用から検査、ロックダウン(都市封鎖)、移動禁止、ワクチン接種証明書、そのほかの書類手続きへと変化していく管理形態と共存してきた。

 アウトブレイク(感染の集団発生)や変異株が発生したり収まったりするにつれ、こうした管理形態も再び厳格化されたり緩和されたりすることが予想される。

 これは、まだエンデミック(特定の地域で発生する病気)の状態に落ち着いていない病と共存する対価だ。