(英エコノミスト誌 2021年12月18・25日合併号)
中国政府が好む信義の一つは、新たな冷戦を始めてはいけないと西側の民主主義国を諫めることだ。
中国共産党の高官は厳かに、平和な世界にはもっと「ウィン・ウィン」な協力が必要だ、イデオロギーによる派閥はいらないなどと説く。
外国の大使館が立ち並ぶ北京市内の一角では今冬、その手の言葉が白々しく響く。
外交の前線で宣戦布告もせずに冷戦を始めたように見えるのは、ほかならぬ中国だからだ。そして中国は勝利を確信しているように見える。
前哨戦があったのは12月15日だった。
バルト海に面した小さな共和国リトアニアが外交官全員とその扶養家族を「協議のために」北京から引き揚げた。大使館は施錠され、もぬけの殻となった。
きっかけは数カ月前、民主主義の島・台湾が代表機関を首都ビリニュスに開設することをリトアニアが承認したことだ。
中国側は立腹し、リトアニアを懲らしめようと数カ月間にわたって圧力を強めている。
中国に言わせれば、台湾は自国の領土であり、台湾の代表機関は中国の主権に対する侮辱となる。
冷戦時代を思わせる大使館退避
退避は軽々しく行われたわけではない。
1981年以降で見るなら、リトアニア側が恒久的な閉鎖ではないと主張している今回の大使館閉鎖は、中国と欧州国家との関係にとって最悪の危機だ。
40年前には中国が、オランダが台湾に潜水艦を売却したことに反発して大使を召還した。オランダと中国の外交関係は3年にわたって格下げされた。
リトアニアは今年9月に中国から外交使節の退去を求められており、それ以降は中国に大使を置かずにやってきた。
そして11月になると、中国側は一方的に、両国の大使館を代理大使がトップを務める事務所に格下げすると宣言した。
リトアニアの外交官は、12月14日までに中国の身分証明書を当局に提出するよう求められた。外交関係の格下げを反映するよう修正するためだ。