12月19日に第7回香港立法会選挙が実施され、定員90席のうち親中派が89議席を獲得と圧勝した。「香港国家安全法」も制定され、香港の金融センターや物流のハブとしての都市機能の未来に懸念が生じている。
一方、香港のライバルであるシンガポールでも2020年7月10日に国会総選挙が行われた。与党の人民行動党(PAP)が前回と同じ83議席を獲得したが、得票率は61.2%と史上3番目の低さだった。
今後、この両都市の関係や未来はどうなるのか? 香港とシンガポールの政治・経済に詳しい日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所 開発研究センター 企業・産業研究グループの久末亮一・副主任研究員に話を聞いた。(高橋 清:ジャーナリスト)
「一国二制度」の看板を下ろさない理由
まず香港の選挙結果について久末氏に問うと、「驚きはありません。立候補について制限をかけつつも、一定数の非建制派とされる候補者を認める。しかし、結果は親中派が圧倒的多数を占める。中国本土の全国人民代表大会で行っていることと同じです。一国二制度は名ばかりとなりました。中国が否定するのは多様性で、これからの香港は、彼らが考える1つの意見・考え方・あり方しか認めないことを示しました」と語った。
最近、中国は「中国式民主主義」という言葉をよく使う。それについて久末氏はこう指摘する。「詭弁ですね。中国にも民主諸党派というのがありますが、一党独裁と言われるのを避けるためで、共産党の姉妹団体にすぎません。こういう茶番を演じ、それを信じたふりをしなければならないのが中国式民主主義です。将来の香港の政治体制も同じ図式となるでしょう」。
久末氏は次のようにも付け加えた。
「実は中国政府は、親中派を含めた香港人自体を根本から信用していません。親中派議員が自らの欲得をベースにしていることを見透かしており、昔から彼らを利用はしても信頼はしてきませんでした。舞台に例えるなら、親中派議員は中国政府の政策実行のためのエキストラにすぎません。国安法ができ、従来は市民の抵抗感が強かった役者(中央に忠誠を誓う警察出身者など)が表舞台に出られるようになりました(筆者注:2021年6月に就任した香港のナンバー2の李家超政務長官は前保安局長)。親中派最大政党の民建聯系議員ですらも、政策決定からは従来以上に遠ざけられ、立法会で賛成ボタンを押すだけになるでしょう」