オーストラリア・キャンベラの国会議事堂で行われたAUKUS協定の調印に臨む英国のビクトリア・トリーデル豪総督(左)、ピーター・ダットン豪国防相(中央)、米国のマイケル・ゴールドマン米特命全権大使(2021年11月22日、写真:AAP/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 かつて、中国国民党が国共内戦で敗北したことによって中国を支配下に治めることには失敗したものの、欧米中心の国際秩序に“楯突いた”日本を打ち破り、念願であった太平洋全域の覇権を手にしたアメリカは、その覇権と“国際秩序”を今度は中国によって脅かされつつある。

 トランプ大統領は、アメリカのアジア太平洋地域での覇権を維持しようと露骨に中国を仮想敵筆頭に指定し、アメリカが中国と通常兵器で対決する際の主戦力となる海洋戦力、とりわけその根幹となる海軍の戦力増強を強力に推進しようとした。しかしながらトランプ大統領が「中国ウイルス」と呼んだ新型コロナウイルスによって政権は足元をすくわれてしまい、バイデン政権の誕生となった。

ぶれまくっているバイデン政権

 バイデン大統領は、かつて中国に対して融和政策をとったオバマ政権下で副大統領を8年にわたり務めた。そのうえ、中国とのつながりが強い側近が少なくないため、対中政策がオバマ政権時代に揺り戻されるのではないかと危惧されていた。

 しかしバイデン政権は、新型コロナウイルスで米国内世論が反中的(一般の人々にとっては人種差別的心情に基づくものなのであるが)になっていた状況を鑑みて、いきなり対中融和姿勢を取ることを避けた。そのため今のところは、トランプ大統領が打ち出した「台湾を軍事的にも支援する姿勢」を維持するポーズをとっている。