10月11日の早朝午前5時、韓国・忠清北道忠州市の忠州拘置所の正門前は静かな熱気に包まれていた。
記者らが待ち構えているところに姿を現したのは、180センチ級の長身に、胸に届くほど髪を伸ばした一人の男。取材陣は写真に収めようと一斉にカメラを向けたが、出迎えに来ていた6~7人の関係者が素早く男を囲み、黒い傘をさして撮影を阻んだ。
服役者には到底似つかわしくない長髪に、ものものしいガード。人目を忍ぶ往年のロックスターなのか。いや、この人物こそ、今回の主人公である韓国財閥・泰光(テグァン)グループのオーナー、李豪鎮(イ・ホジン)前会長(59)だ。
泰光グループとは、「泰光産業」を中核に系列19社を擁し、財産規模50兆ウォン(約4兆8000億円)、売上高12.5兆ウォン(約1兆2000億円)を誇る中堅財閥だ。事業分野も繊維、石油化学、金融、放送メディア、インフラ、レジャー、アート、教育・・・と多岐にわたる。
近年順位を下げたものの、韓国政府の発表する企業序列で49位につける、れっきとした企業グループだ。先の東京五輪でも活躍した女子バレーのキム・ヨンギョン選手のファンなら、彼女が日本のJTマーヴェラスに移籍する前まで所属し、昨シーズンもプレーしたチーム「興国(フングク)生命ピンクスパイダーズ」の名は聞いたことがあるだろう。この興国生命も、泰光グループの系列企業の一つだ。ただ、日本では、その業態の性格もあり、「知られざる韓国財閥」と言えるかもしれない。
泰光グループは現在、トップの会長ポストが空席という非常事態が続いている。受難の始まりは2010年、李前会長の数千億ウォンに及ぶ不正蓄財に対し、検察の捜査が本格化したことだった。