これは間違いではないが、半分しか当たっていない。実際の設計チームの体制は、「設計指導:内藤多仲、設計:日建設計」である(「基本設計:内藤多仲、実施設計:日建設計」と表記されることもある)。

内藤多仲(イラスト:宮沢洋)

 内藤多仲は戦前から戦後にわたり「鉄塔」の設計を数多く手がけた構造エンジニアで、早稲田大学教授でもあった。内藤が設計に関わった全国6つの大型タワーは、“タワー6兄弟”とも呼ばれる。完成年順に名古屋テレビ塔(1954年完成)、通天閣(1956年完成)、別府タワー(1957年完成)、さっぽろテレビ塔(1957年完成)、東京タワー(1958年完成)、博多ポートタワー(1964年完成)だ。確かに、このプロフィルは伝わりやすい。

 東京タワーの検討過程では、内藤多仲が基本方針を示したが、最終的な設計図面をまとめたのは日建設計である。コンピューターのない時代に複雑かつ膨大な計算を行い、世界一の高さの安全性を検証することなど、とても1人でできることではない。しかし、日建設計の名前は、番組の本編には一切出ることがなく、エンドロールの中に協力者としてちらっと映るのみだった。

 ちなみに、日建設計内で構造設計の中心になったのは、内藤多仲の教え子である鏡才吉である。電卓すらなく計算尺で構造計算を行う時代だったが、このときの計算の驚異的な正確さは、後にコンピューターで検証されている。

写真:アフロ

「大組織は無個性」という思い込み

「集団で設計した」というのはドラマになりにくいのだろうか。ネクタイ姿の大勢のスタッフが、1つの机を囲んで汗をぬぐいながら構造計算に没頭するというのは映像的にも面白いし、それぞれに個人の物語が重ねられると思うのだが……。

 そこには「建設現場は一匹狼の集まりだが、大きな設計会社は無個性の人間の集まり」という思い込みがあるのではないか。少なくとも日建設計は、そういう組織ではない。約1年にわたり、同社を取材した筆者はそう断言する。

 2021年11月19日に上梓した拙著『誰も知らない日建設計』では、一般的な大組織のイメージとは異なる日建設計の不思議さを読み解いた。次回以降、そのいくつかの側面を紹介する。

第2回
大胆な建築デザインを生み出す“組織設計のカリスマ”とは
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67791

『誰も知らない日建設計 世界最大級の設計者集団の素顔』
著者:宮沢 洋
価格:2750円(税込)
ISBN:978-4-532-32442-1
発行日:2021年11月19日
発行:日経BP日本経済新聞出版本部
ページ数:184ページ
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4532324424/
日経の本:https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/32442