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写真:アフロ

(文:矢野耕平)

「親の狂気が必要」などと喧伝される中学受験で、実はわが子の受験を他人事のようにしか捉えられない親が増えている。塾講師歴27年の筆者が指摘する、衣食住も教育も満ち足りているのに「ネオ・ネグレクト」状態にある子どもたちの実情。

「アウトソーシング」を口にする親

「いままで多くの親の相談に乗ってきたけれど、『アウトソーシング』をすぐ口にする親は一様にマズい傾向が見られるよね」

 知り合いの同業者と話をしたときに、こんなことを言われた。

「アウトソーシング」とは、直訳すると「外部委託」「外注化」である。

 ただ、そのことばを耳にしたときのわたしは正直ピンとこなかった。

 わたしは中学受験専門塾を経営しているが、そもそも、塾というのは「ご家庭の手ですべて解決できない」からこそ、わが子の中学受験勉強をアウトソーシングする場ではないのか。そう感じたからだ。

 けれども、彼の発言内容をじっくりと考えてみたところ、その真意が分かってきたのだ。

 彼が口にした「アウトソーシング」とは、すなわち「丸投げ」を意味していたのである。

 この点については、わたしも思い当たる節がある。一つ、エピソードを紹介しよう。

 担当していた小学校6年生の子の母親と面談をしていて、受験校選定をどう考えているか尋ねた際、こんな発言があった。

「わたし、考えるのが面倒くさいから、先生が全部決めてくださいよ」

 思わず、わが耳を疑った。その母親はこう続ける。

「先生はプロじゃないですか。ウチの子に合っている学校を教えてくれれば、それに従います」

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