北朝鮮では、幹部になればなるほど足元を掬われないよう酒に警戒する(写真:AP/アフロ)

「酒量が度量」という言葉がある。酒をたくさん飲む人は心が広いという意味だ。酒で外交とビジネスを行なった時代があり、一部の国では今なお「酒外交」や「酒ビジネス」が続いている。遠方を探すまでもなく、南北実務者会議でも酒は欠かすことができない定番のアイテムだ。

 北朝鮮は幹部人事の登用においても酒量を重視する傾向がある。北朝鮮の酒量人事の実態を探ってみよう。

(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時
(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 酒は長所もあるが短所も多い。酒を多く飲む人は飲まない人と比べれば、酒を理由とした失敗の可能性もある。日頃から言葉に気をつけなければならない北朝鮮ではなおさらだ。

 韓国では、お酒をたくさん飲むと「フィルムが切れる」と言うが、北朝鮮では「ピンが抜ける」と言う。時計の時針と分針、秒針を固定するピンが抜けるという意味で、酒をたくさん飲んでピンが抜け、政治の話をしたことから世を去った人は1人や2人ではない。北朝鮮の幹部人事で、酒をたくさん飲む人は除外される傾向がある。

 金正日総書記は飲酒政治を実施した。歌舞飲酒を好んだ金正日総書記の個人的な性向から酒飲みが短所ではなく長所とされたが、金正日総書記は平素から歌舞飲酒の席で同席した幹部に強い酒を飲ませ、酔いにまかせた話から幹部の内心を知ろうとしていた。

 その代表例に対南統一戦線部部長だった金容淳書記がいる。