杜撰な工事への危惧もある。土手の空き地に建設中のパネルの裏を覗いて見た。アルミの土台に大きなパネルが仰角に留め金で固定されている。
「これは危ない。止め口がしっかりしていない。土台自体が軽いから強風でパネルの下から煽られると簡単に飛んで行ってしまう」
と、案内の中山さんが顔をしかめた。
太陽光発電事業の煽りで苦しめられる人々
それにしても巨大ソーラーパネルは里山の風景に明らかにミスマッチだ。火の見櫓の隣、墓地の真横、国道の脇、ここにもある、あそこにもある。あらゆる所にイカ墨スパゲティを巻き付けたような電柱が建っている。
今月の7月、再び北杜市を訪ねた。渡部さんの家の前はソーラー畑はさらに横に拡がっていた。
「業者は環境の事なんか何も考えていない。ただ金が儲かりさえすればいいという無責任さが熱海の災害を招いたのではないですか? 日本は美しい国だと言われますが、こんな環境破壊を許していて美しい国だと言えますか?」
と渡部さんは怒りを露わにした。
今回案内してくれた市民グループの一人の春木さんが言葉を継いだ。
「ソーラー自体がいけないと言ってません。太陽光エネルギーの活用は素晴らしい事だ。ただ所かまわずに設置し、景観や環境を破壊する事が問題なんです。今のままでは一度設置されたら生きている限りソーラーパネルに付きまとわれることになる」
2019年に北杜市は太陽光発電設備装置と自然環境の調和に関する条例を施行したが、渡部さん達には適用されなかった。
今年の8月にも市長と面談したが、彼らが納得できる回答は得られなかったという。そしてこの9月5日、東京高裁は渡部さん達のソーラーパネル撤去の控訴を棄却した。
震災後、国は再生可能エネルギーへの転換を進めた。そして雨後のタケノコのように事業者が参入した。しかし、原発と同じくその陰で苦しんでいる人達もいる。
再生可能エネルギーの普及と原発への依存度の問題、その他にも水素社会への取り組み、カーボンリサイクルの研究・開発、更なる省エネ対策、と今、エネルギー政策は待ったなしの状況だ。
もはやエネルギー政策において政治家や企業の思惑が利権と絡んでいる場合ではない。その舵取りはこれからの政権に委ねられる。