(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
10月4日、岸田新内閣がスタートした。総理は「新しい日本型資本主義」を構築するとして、所得の再分配を経済政策の基本に据える方針だ。所得の再分配という方向性を否定する向きは少ないだろうが、総理が主張する「令和版所得倍増計画」についての具体的な道筋がはっきりしていないのが気がかりだ。
構想の大元にあるのは総理が所属する宏池会の創設者、池田勇人元総理の所得倍増計画があるのは言うまでもない。
岸田総理は「分配なくして次の成長はない」と主張しているが、昭和版所得倍増計画の中には国民一人ひとりの所得を倍増させる直接的な施策はなかった。むしろケインズ的な思想を取り入れ、日本経済の潜在成長力を最大限に引き出すためのサプライサイドの政策の要素が強かった。
1961年からわずか7年間で日本の実質国内総生産(GDP)は2倍となり、目標は前倒しで達成された。拡大したGDPは農村を中心とする勤勉な労働力(いわゆる出稼ぎ労働者)を通じて日本全体に配分されたことから、国民の間に「一億総中流」の意識が生まれたというのが実情だ。