岸田文雄前政調会長が今日(10月4日)、招集された臨時国会で首相に指名される。岸田氏は「新自由主義の見直し」と「令和版所得倍増計画」を打ち出しているが、この計画には大きな落とし穴が待ち構えている可能性が高い。池田勇人元首相が提唱した所得倍増計画には、一般的に理解されている内容と現実には大きな乖離が存在しているからだ。(加谷 珪一:経済評論家)
分配が先か成長が先か
岸田氏は総裁選を通じて「小泉内閣以降の新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張。「令和版所得倍増計画」による格差是正と中間層の復活を訴えてきた。
日本において格差が拡大しており、抜き差しならない状況になっているのは紛れもない事実である。特に日本の場合、超富裕層がさらに資産を拡大させるという米国で見られるような上方向の格差ではなく、低所得層の貧困化が一方的に激しくなるという下方向の格差であり、その是正は容易ではない。
上方向の格差の場合、豊かになりすぎた超富裕層への課税を強化すれば簡単に再分配の原資を捻出できる。ところが下方向に格差が拡大している日本の場合、超富裕層はごくわずかしか存在せず、ここに課税しても得られる税収はたかが知れている。再分配の原資を中間層に求めるしか方法がなく、実施すれば中間層からの猛反発が予想される。日本において格差是正が叫ばれながら、一向に実施されなかったのはこれが理由である。