(ジャーナリスト:吉村剛史)
自民党総裁選で第27代総裁に岸田文雄氏が選ばれた。その岸田氏には、海洋進出に力を入れ覇権主義的姿勢を強めている中国にとって、どうしても気がかりな背景があるようだ。
米中対立の中で「台湾海峡の平和と安定」は国際的に極めて大きな注目の的だが、実は岸田氏の先祖は、戦前、台湾・基隆(キールン)で呉服商などを営んでいた。そうした深い縁の存在は中国にとって面白いはずがない。
一方の台湾社会は、現存する当時の店舗建物について新たな名所として反応。岸田新総裁と李登輝元総統との生前の交流も注目されるなど、「岸田フィーバー」が起こっている。
第二次安倍内閣で岸田氏が外相を務めた2013年には、日本と台湾が沖縄県・尖閣諸島周辺水域の漁業資源の扱いを巡って折り合いをつけた日台民間漁業取り決め(協定に相当)も締結に至った。このことも台湾では好感されている。
このように台湾社会の歓迎ムードが濃厚である分、中国は4日発足する岸田新内閣に対する警戒感を強めそうだ。
曽祖父が台湾・基隆で呉服店や喫茶店を
新総裁誕生を受けて、台湾紙「自由時報」や「聯合報」系の電子版をはじめテレビ各局も、「岸田文雄將任日本新總理 曾祖父在基隆開過的店保存良好」(新たに日本国首相となる岸田文雄氏の曽祖父が基隆に開いていた店舗の保存状態は良好)などの見出しとともに、岸田氏の曽祖父、・岸田幾太郎氏が1895~99年に台湾・基隆の現中正区信二路(日本統治当時は義重町)の一角で「岸田呉服店」「岸田喫茶部」を経営し、基隆発展の一端を担ったことを紹介。当時から人目を引いた優雅な洋風建築が100年以上の時を経ても良好な状態で残っており、今なおレストラン、ベーカリー店舗として利用されていることを相次いで報道した。
基隆は日本統治時代の台湾では、内地と台湾を結ぶ航路の玄関口にあたる港町。幾太郎氏が広島から家族とともに移住して構えた店舗は、当時の台湾で最も繁華だった場所のひとつとされている。