重症病床を確保し、かつ重症診療の質を維持するため、埼玉県で運用が始まったtele-ICU(遠隔集中治療支援システム)。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まる前からその実現に努めてきた讃井將満教授(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が、その必要性、意義を訴える。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第67回。

 新型コロナウイルス感染症の感染者数が過去最多となった第5波では、病床の不足が深刻な問題となりました。重症病床についても、重症患者数が過去最多となったことで逼迫。埼玉県ではピーク時には重症の空き病床がほぼなくなり、中等症病院に入院している患者が重症化しても転院調整が困難になるという事態が一時的に起こりました。

 中等症病床を重症病床に転用するなど、重症病床確保は継続的に行われています。実際、当初(昨年7月19日まで)60床だった重症病床は、現在(今年9月7日以降)236床と4倍に増えました。しかし、増床は簡単ではありません。その大きな要因になっているのが、重症患者を診療できる専門家(集中治療医、集中治療看護師など)の不足です。専門家は短期間で育成できないため、どうしてもボトルネックになってしまうのです。

 このような状況の中、1床でも多く重症病床を確保し、かつ医療の質を維持するために、埼玉県ではさまざまな取り組みを行っています。

埼玉県が構築した「tele-ICU」

 そのひとつが、tele-ICU(遠隔集中治療支援システム)による病病連携(病院間の連携)です。

 遠隔診療(リモート診療)には、DtoP(医師=Doctor/患者=Patient間)とDtoD(医師/医師間)がありますが、tele-ICU後者で、複数の病院の集中治療室をインターネットでつなぎ、拠点病院がモニタリングと適切な助言を行うというものです(第4回参照)。

 具体的には、離れた病院のICU患者の心電図、呼吸数、心拍数、酸素飽和度、血圧、検査所見、放射線画像、カルテ情報などに加えて、リアルタイムの患者映像やモニター映像を拠点病院に送り、各病院のスタッフと拠点病院スタッフ間で情報を共有しながら拠点病院による診療支援が行われます。その中には、医師だけでなく、質の高い集中治療に不可欠な看護師をはじめとする医療従事者間の診療支援も含まれます。さらに、毎日のICU回診で使用できるだけでなく、急変時の診療支援にも使用できます。

 つまり、集中治療医をはじめとする専門家が絶対的に不足している中で、現在ある人的・物的資源を最大限有効活用して新型コロナ感染症に立ち向かおうという発想で、埼玉県ではtele-ICUを構築したのです。