当たり前となったアスリートの情報発信。メディアでは知ることのできない、あるいは取り上げられることのない話が聞けたり、即時的なファンとの交流など、スポーツの価値向上に大きな貢献をしていると言える。
アスリート自ら、何かを伝える。サッカー界において今、影響力を持っているのが那須大亮と岩政大樹だ。ふたりは同級生であり、同時代にライバルとしてしのぎを削った中ではあるが、情報発信という点でも、ある共通点がある。
現役時代から自分の言葉で「発信」を始めた、という点だ。
那須大亮が、サッカー界の第一人者となった「YOUTUBE」チャンネルをはじめたのは、2018年。ヴィッセル神戸でプレーをしていた。岩政大樹が、本格的にメディアで連載を始めたのが2016年で、ファジアーノ岡山で中心選手として活躍していた。
試合も練習もある本業がある傍らではじめた「発信」。なぜ始め、そして今、アスリートの情報発信についてどう考えているのか。
8月で登録者数30万人突破の快挙を達成した那須、そして、9月に2年半ぶりの新刊『FootballPRINCIPLES 躍動するチームは論理的に作られる』(SYNCHRONOUS BOOKS)を発表し早々に重版を果たした岩政、ふたりに聞いた。
批判コメントに「無関心じゃないんだ」と思えた
──まず、那須さんがYouTubeを始めたきっかけから教えてください。
那須大亮(以下、那須):思いを伝える手段を探していたんです。サッカー選手を続ける中で、多くのサポーターや裏方の方々に支えられてきました。そういった方々に対して、自分の声を使って、何か還元したいと思っていて、タイミングよくYouTubeという媒体に出会いました。
当時はまだそれほど普及していませんでしたが、その拡散力や影響力は大きいなと感じていました。
岩政大樹(以下、岩政):2017年? 2018年くらいだっけ?
那須:そうそう、2018年。
岩政:神戸に取材で行っていたとき、取材終わりに「YouTubeやるんだよ」と言っていたのは覚えている。「ユー、チューブ?」って、僕はその頃まだよくわかっていなくて。今でこそサッカー系の動画も増えているけど、まだそんなに親和性がある感じではなかったよね。
那須:スポーツの動画自体が少なかったよね。市場ができていなかったというか。過激な動画が人気で、スポーツ自体との相性が良くないころかな。今はいろいろ規制もできて、環境が整ってきたところはあるよね。
岩政:それでもYouTubeを選んだのは、他の人がやっていないから挑戦してみようってことだったの?
那須:それもあるけど、一番はやっぱりサッカーの価値向上につながると思ったんだよね。
いざ、始めて見たらネガティブなコメントが来たりするわけ。そのときに無関心じゃないんだな、と思えた。それだけ注目を集めることができる媒体なんだ、って。サッカーの価値向上が目指すところなんだから、その人たちの目、見え方を変えればいいだけで、これはチャンスだ、チャレンジしてみようって。
岩政:いきなり深い。議論を起こそうと思うと批判的な意見もないといけないんだけど、議論をしたい側の人がそれを嫌がることも多いんだよね。
不可抗力にせよ、それがあったからこそ那須くんのチャンネルの深みが増していったんだろうね。
那須:そうだよね。当時YouTubeの目的が自分のパーソナルな価値向上、人気向上だったら続けられなかったと思う。
岩政:なるほど。
那須:サッカー界の向上とか、応援してくれる、関わろうとしてくれる人たちに対して、自分からトライして価値を広げたいという思いがあったからできたかな、と今は思うよね。
岩政:未来の大きなビジョンがあるから、近くのものなんか気にならない。そこは共感できる。
書き物を始めたときのことを思い返すと、自分が有名になりたいみたいな個人的な欲求より、選手の内面とか、表に出づらいものを世の中に伝えたいという思いがあった。
「サッカーがもう少しこうなってほしい」という思いがいつも自分の原動力になっている気がする。