和田毅(わだ・つよし)1981年、島根県生まれ。福岡ソフトバンクホークス所属のプロ野球選手。メジャーリーグのシカゴ・カブスでも活躍した、最速148kmの左腕。松坂大輔世代における最後のプロ選手(写真:ZUMA Press/アフロ)

 プロ野球界における最先端の集団と言っていいだろう。

 福岡ソフトバンクホークスは昨年の日本シリーズで読売ジャイアンツに4連勝し、4年連続の日本一を決めた。日本シリーズ4連覇はパ・リーグ史上初めてのことだ。

 その圧倒的な強さの要因のひとつとなっているのが、テクノロジーとデータの活用だ。

 自球団と他球団のあらゆるデータを集めたシステムを構築し、選手たちが気軽に携帯やタブレットからアクセスできるようにしている。

 たとえば投手であれば、相手チームの打者について過去の対戦映像をチェックでき、得意なコースといった好みや癖も知ることができる。打者であれば、相手バッテリーの配球パターン、ある球種を投げるときはどこのコースが多いかといった情報を知れる。

 また、走攻守の動作データを人工知能で分析するシステムも導入し、フライに対してどうアプローチしたか、投球の瞬間にどう動いたか、どう走塁したかなどを解析。他球団もデータ分析に力を入れ始めているが、ホークスは一歩先を進んでいる。

 そんなモダンな最強チームにおいて、根性はどう捉えられているのか?

 データを積極的に活用し、41歳にしてなお先発としてチームを支えた和田毅投手と、GM補佐兼データ分析担当ディレクターの関本塁に話を聞いた。

 前編は9月5日のオリックス戦でも勝ち星を挙げた、和田毅投手インタビューをお送りする。

(木崎伸也:スポーツライター)

結果だけで語ると「芯」がなくなる

──和田投手はこれまで新人王、最多勝、MVP、最高勝率など多くの個人タイトルを手にし、ホークス在籍中に日本一を7度経験しています。著書『だから僕は練習する 天才たちに近づくための挑戦』では、「考えて練習すること」の大切さを説いていますね。和田投手にとって、根性とは何でしょう?

 まわりから見ると根性があるように映っているのかもしれないですけど、自分としては根性とは思ってないんですよね。

 嫌なことに取り組むのであれば、「よし、なんとか根性でやってやろう」と思うのかもしれませんが、野球は好きなことなので。

 好きでやっているので、自発的に「あれが必要、これをやらなきゃ」となる。頂点へ行くために必要だと思うから、なんでもやれるんです。

──「考えて練習すること」の例をあげると、弾道測定器「トラックマン」(リリースポイント、球速、回転数、変化の大きさなどを測定できる)のデータをうまく活用していますね。

 登板後に毎回トラックマンの数値を見るわけではないんですが、自分がうまく投げられなかったと思ったときに、イニングごとにリリースポイントがどう変わったかを見ます。

 リリースの位置がどのタイミングから低くなったか、ストレートと変化球でリリースの位置が変わったかなどを、チェックできるのですごく助かりますね。

 たとえば5回に極端にリリース位置が低くなっていたら、そこで疲れが出たんだなと推測できる。次の登板では5回以降にリリースポイントに気を配ろうと、対策を立てられます。

──これからの時代、データをうまく生かすことも、根性の一部になるでしょうか?

 気をつけなきゃいけないのは、データというのは結果にすぎないということです。感覚もすごく大事だと思います。

 映像を見て「ヒップローテーション(編集部注:左右の臀部を入れ替えるイメージで投球すること)をして、体がうまく回転し、リリースポイントが前になっている」と言っても、ヒップローテーションがどうすればできるのかは、別の問題ですよね。

 こういう体の使い方をして、こういうトレーニングをするから、結果的にヒップローテーションが生まれるという視点ならいいんですが、「ヒップローテーションをすればいい」みたいな感じで、形を追ってしまうことが結構ある。

 こういうデータがあるからといって、それに似せようとして形だけを追ってしまい、根本的な感覚を抜きにすると「芯」がなくなると思います。

 なぜこういうデータになるのかというところまで、突き詰めないといけないな、と。

──感覚を駆使して、データのもとにある「なぜ」まで遡るべきということですね。

 他球団のエースが2500回転のスライダーを投げているのを見て、ただ回転数を近づければ抑えられるかといえば、そうではないですよね。

 データだけを見て、ランニングはいらない、筋トレだけしてればいいという意見もあると思うんですが、「なぜ」が表面的なところに留まっているように感じます。

 人それぞれ、体型、体格、身長、体重が違う。2メートル近い身長の人が走ったら腰を痛めるかもしれませんが、170センチの人が筋トレしかせずランニングをしなかったら、バネが弱まるかもしれない。